第169話 認識阻害

「そう言えば、猫が認識出来なくなる様な結界って張れないかな?」

リビングの植木鉢に突っ込もうとする源之助を身を張って止めているシロちゃんを見ながら、ふと碧が聞いてきた。


「・・・確かに、認識阻害の結界を人間ではなく猫用にしたら源之助がちょっかい出そうとしなくなるか」

碧が試しに展開した結界で源之助が尻餅をついたのを見て、ゴミ箱の蓋代わりに結界を張って貰ったら良いかな〜と思っていたのだが、確かに頭を突っ込んで悪戯出来ない様にするよりも、頭を突っ込もうと思わなくなる様にする方が、結界への負荷が少なくて済んで長持ちしそうだ。


最近、源之助がゴミ箱や植木鉢の中に興味を示す様になって色々面倒だったんだよね〜。

ちょっと目を離すと堀り返し始めるので、ゴミ箱には蓋をしている。

植木鉢はシロちゃんの必死な努力でほぼ守られているが、あれのせいでシロちゃんの魔力がかなり浪費されている。


認識阻害は通常は人間が見ても気が付かない様にする結界だが、猫相手にだって出来るはず。

前世ではペットを飼っていなかったのでやろうと思わなかったが。


魔術学院で教わった魔法陣なので、どの部分がどんな役割を果たしているかは知っている。

まあ、授業で教わったのは血族とか認証用の魔道具を持った人間以外には認識させない様な使い方をする為のカスタマイズ方法だったが、対象条件の部分を『猫』にすれば大丈夫な筈。


・・・考えてみたら、黒魔術は精神指標マーカーで対象の条件付けをするんだけど、クルミも引っ掛かるかな?

まあ、クルミにゴミ捨てを頼むことなんて無いから大丈夫か。


でも、家の中で何かを探して貰う事になった際に死角があったら困るかな?

使い魔だったら大丈夫かもだけど、確認しておこう。


まずはゴミ箱に、猫用の認識阻害の結界を張る。

今まで猫用のなんてやった事は無かったが、認識阻害の術は前世でよく使っていたのでちょっと特殊でもあっさり出来た。


王族クソッタレ達の視界に入ると通常以上に色々と碌でも無い作業を命じられるからね。

呼びつけられた時以外は貴族や王族がいる区画を歩く際は基本的に認識阻害を自分に掛けて生活していたので、熟練のプロと言っても良いぐらいだったのだ。


肉体的熟練度は引き継がれない転生だが、知識は問題なく残っている(多分)ので、対猫結界も問題は無し。


さて。

次はクルミが認識阻害の対象に含まれるかだな。

「クルミ、ゴミ箱は代わりなく認識出来る?」

『大丈夫にゃ』


大丈夫だった。

霊だと違う扱いなのか、私の使い魔だから大丈夫なのか。

微妙に不明だが、まあ良いや。


「おっし。

次は植木鉢だ!」

最近は源之助が観葉植物の枝や葉っぱにも興味を示し始めたので、認識阻害で植木鉢と観葉植物全体に結界を張ろう。


こないだもシロちゃんが出遅れた一瞬の隙に駆け登って枝を一本折られたんだよねぇ。

自分の体重を支えられない物には登らない野生の本能みたいのって無いのかね?

野良猫が細い木に登って枝を折っちゃう被害なんてあまり聞かないけど。

外にある木の細い枝なんて誰も注意を払っていないのかな?

まあ、野良猫でも子猫の間は色々とうっかりが多いんだろうねぇ。

大人になって学ぶまで枝を折らせ続けるのが源之助の為を考えると正しい育て方なのかも知れないが、流石にボキボキ折られまくるのは困る。

折れるのは一瞬だけど、枝が伸びるのには数年掛かることだってあるんだし。


と言う事で、源之助は木登りを学ばずに育ってくれ。

元々、家の中に登るのに適した太さの木は無いんだ。


「認識阻害って万引きとかに悪用出来そうな術だね〜」

最近かなり興味を示す様になった植木鉢の横を源之助が素通りしたのを見て、碧が感心した様に言った。


「まあね〜。

色々と悪用出来ちゃう利用法が多いのが黒魔術なんだよね・・・」

お陰で黒魔術師ってだけで酷い目にあったのだ。

改めて、『食うため』となれば幾らでも悪用出来ちゃう黒魔術の適用範囲の広さに溜息が出る。

自分は悪いカルマを溜め込んだら次の人生が悲惨な事になると分かっているので誘惑に打ち勝てるが、そんな事を実感していない黒魔術の適性を持った他の人間が誰も能力を悪用しないとは思えない。


こちらの世界では黒魔術の研究が進んでいないお陰であまり悪評は立っていないが、これって大規模に悪用するだけの魔素が無いからかね?


そう考えると、魔素が少なくて術が使いにくいのも、私にとっては良かったのかも。










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