祝賀会とその余波
第154話 祝賀会のお誘い
「協会からランクアップ祝いの祝賀会の招待状が来てるよ〜」
大学から帰った私へ、嫌そうに碧が声を掛けてきた。
「退魔協会ってそんな事もするんだ?」
ちょっと意外。
「今時、立食パーティーでは無く席に座って食事を食べるタイプの・・・半ば強制合コン化している祝賀会。
業界の知り合いを増やすのには良いんだけど、基本的に既婚と未婚でしっかりテーブルを分けてるからそれなりに執拗に話しかけてくる男もいるんだよねぇ」
溜め息を吐きながら碧が言った。
マジか。
結婚式の披露宴ならまだしも、それ以外で立食じゃない大人数のパーティーなんて珍しくない??
まあ、若くて未婚な才能持ちの出会いを増やす口実として開くんだったら、知り合いが固まりがちな立食パーティーじゃあ駄目なのかもだけど。
「祝賀会って事は無料?」
金を取られて合コンもどきに出席したくは無いぞ?
碧と言うそれなりに情報通なパートナーがいるのだ。
下手な合コンには参加する必要も無いだろう。
「私たちの報酬から毟り取られている手数料から出ているんで『無料』と言えるか微妙だけど、追加出費はないわ」
不機嫌そうに碧が答える。
古い神社の娘で白龍さまの愛し子となったら、何処の若いのも狙いまくりで鬱陶しいんだろうなぁ。
それでもサボると言わないところを見るに、それなりに強制的なのか、参加するメリットがあるのか。
「ちなみに、仕事の話題とかが出た場合にお守りを売っている事を話したり、不眠っぽい人に売り込んだりしても良いのかな?」
碧と一緒に働いている事を隠していないのだから、相手が藤山家の諏訪神社に来れば我々の作ったお守りに気付く可能性もあるから完全に秘密にするのは無理だが、雑談で話題にしても良いのだろうか?
結局、安眠祈願のお守りは1ヶ月ほど治験をした後に売り出し始めた。
実は魔力の減り具合から見て3ヶ月より長く持ちそうなのだが、別に保証期間なんて無いお守りなのだから多少長く保つ分には問題は無いし、使用して問題が起きる様子も無かったので、一番弱く安いやつを売り出してみる事にしたのだ。
安眠用は暗くて寝転がっている人が範囲内にいる時しか起動しないので、肩凝り用よりも使用時間が少ないせいで想定より長持ちしそうなのかも知れない。
一応、複数持っていても効果が重複しない様にしたし、アイマスクでは無くカーテンを閉めて使う様にと注意書きには明記しておいた。
取り敢えず現時点では文句は来ていない。
まあ、今時『お守りの効果が無い!』なんて神社に文句を言いに来る人なんていないだろうけど。
不眠に悩む人も意外と多いのか、特にネットで口コミが流れている訳でも無いがボチボチ売れている。
安眠祈願のお守りってあまり売ってないみたいなので、見かけたら珍しさもあって買っている人がそれなりにいるみたい。
「言っても良いんじゃない?
欲しがる業界の人に渡して、評判が良かったら繰り返し使える符バージョンを退魔協会で販売しても良いし。
もっともお守りだってかなりの期間使えるっぽいから、もっと高いのを売りつけるのは難しいかもだけど」
碧が肩を竦めながら言った。
そうなんだよねぇ。
1500円で3ヶ月以上使えそうだったらそれで十分な気がする。
例え数年使えるとしても、符を1万円(退魔協会で売られている符の最低価格)も出して買う必要はあまりないだろう。
符だったらもっと強力にも出来るが、下手に問答無用な効果のある睡眠符なんぞ売り出したら悪用された時が怖いし。
ある意味、誰かを誘拐するの際に嗅がせるクロロフォルムみたいな効果があるのに警察が探知出来るような証拠が残らないので、使用条件を制限しない睡眠符は使い手次第によってはタチが悪い。
「まあ、お守りの方が無難だね。
普通の紙と雑草の切れ端で作れるからめっちゃ費用効果が高いし」
符の為に魔力の籠った和紙と墨を使うと、材料費だけで数千円するからね。
ネットのオフィス用品の店で大量に買ったコピー用紙を3分の1に切って出来ちゃうお守りはコスト面では無敵だ。
しかも『聖域の雑草』と言うチートな素材があるから出来るビジネスなので、競争相手が出てくる心配も無いし。
お守りに
取り敢えず。
祝賀会で業界の知り合いを増やすか。
テーブルの同席者がまともな人だといいなぁ・・・。
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