第151話 値段と効果

「草刈り用の筋肉なんて別に必要無い!」

風呂から出た碧はあっさり白魔術で筋肉痛を癒してしまった。

筋肉痛って魔術で癒さずに自然治癒するまで我慢する方が筋肉が発達すると前世で聞いたが、こちらの世界でも術師の業界では同じ事が言われているらしい。


が。

確かにうら若き乙女にとって草刈り用の筋肉が発達する必要はないよね。

「私もお願い〜」

ちょっと黒魔術で痛みを緩和していたが、やはりあちこちがギシギシと痛いのは面倒なのでついでに頼む。


「ほ〜い」

治して貰ったらあっさり痛みが全て消えた。


黒魔術でここまで酷い筋肉痛を完全に消すと感覚そのものがなくなって、まるで長時間正座して足がギンギンに痺れちゃった時みたいに触れても感覚が無く、『動かせるけど動きが感じられない』不気味な状態になるんだよねぇ。

やはり治療系の白魔術って便利だわ〜。


「ちなみに神社とか親族関係で不眠症気味の人っていた?」

碧に尋ねる。


青木氏関係で被験者が何人か居そうだが、ここでちょっとテスト出来たらやってしまいたいので誰か被験者になれる人が居ないか確認して貰えないか頼んでいたのだ。

効果については販売元となる碧パパと碧ママの意見も聞きたいしね。


「う〜ん、近所のじーちゃんとかばーちゃんで頻尿で夜中によく起きちゃうとか、睡眠時間が短くなってきて早く起きちゃって困ってるって人はそれなりにいるみたいだけど・・・ある意味加齢の自然な結果なのかと思うと下手に符で対処しちゃうと危なく無い?」


碧が微妙な顔をしながら聞いてきた。


「う〜ん、頻尿に関してはそっちの薬で治した方が良いだろうけど、睡眠薬や睡眠導入剤を飲むよりは副作用が無くて良いと思うよ」

親戚の叔母が一時期睡眠導入剤を飲んでいたが、翌日も頭が重くて辛いと母に愚痴っているのを聞いた記憶がある。


考えてみたら、丁度いいぐらいのお守りが出来たら叔母にお土産とでも言ってあげたら良いかも知れない。

力の事は家族に言っていないし叔母に教えるつもりも無いが、『御利益があるって評判になってる知り合いの神社の安眠祈願のお守り』をあげるだけなら問題はないだろう。


「じゃあ、何通りかの効き目の安眠符を入れたお守りを作って渡してみない?

どのくらい効果があるのが一番好まれるかとかの確認には色んな人に試してもらう方が良いだろうし」

碧が提案した。


確かにね。

お守りの効き目もどの程度が好まれるか、被験者を多く集めて確認した方が良いだろう。

「だけど好みが分かれた場合、お守りの効果の強弱なんてどうやって表記するの?」


流石に『睡眠導入効果:大』とか『睡眠導入効果:小』とか露骨に書いてお守りを売り出す訳にもいかないだろう。


「基本的に、人って値段が高いと効果が高いと思うみたいだよ。

効き目の好みが分かれたら、3通りぐらいの値段と効果のを作れば良い思う。

と言うか、どっかで見たマーケティングの記事によると3つぐらい選択肢がある方が人ってどれかを手に取って買う確率が上がるらしいから、被験テストの結果がどうであれ、3種類ぐらい作ると良いんじゃない?」

冷蔵庫から麦茶を取り出しながら碧が言った。


なるほど。

値段で効果を暗示するのか。

確かに切実に寝る必要があるなら高いのを買うかもね。

まあ、最初は弱いのから試すべきだと思うけど。

「そうだね。

売り場の人には『ちょっと眠れない程度だったら一番安いの、睡眠導入剤を使うぐらい酷いんだったら真ん中の、睡眠導入剤も効かないぐらい酷いんだったら一番高いのを勧めて』とでも言っておくと良いかも」

まあ、まずは被験者に試して貰ってどの程度の効果にするか確認する必要があるが。


「そう言えばさ、睡眠薬の常時使用は体が慣れちゃうからあまり良く無いって聞いたことがある気がするけど、安眠符は大丈夫なの?」

碧が棚から煎餅を取り出しながら聞いてきた。


おいおい。

もうすぐ夕食の筈だよ?

まあ、怒られるのは私じゃ無いからいいけど。

「薬と違って魔術は繰り返し使っても体が慣れて効き目が落ちると言う事はないから大丈夫。

ただ、代わりに魔術の適性とか魅了や魔眼の様な魔力を使うスキル持ちだと、ある程度抵抗出来ちゃう場合もあるのから効き目が薄いかもね」


碧が首を小さく傾げた。

「抵抗出来ちゃう『場合もある』?

いつもでは無いの?」


「どのくらい疑っているかによるから。

疑っていると潜在意識で抵抗するから魔力持ちだと効果が落ちるんだよね。

効くと信じてると抵抗しないから魔力持ちでもあっさり効くよ」

まあ、現代日本人でお守りの効果を信じている人なんて殆ど居ないんじゃないかと思うけど。


退魔師だったら魔法陣と魔力を感じ取って効果を信じるかもだが、退魔師だったら得体の知れない魔道具っぽいお守りなんぞ無防備に使わないだろう。


「ちなみに、魔道具の売り出しって退魔協会に報告しなくちゃいけないとか、無いよね?

魔力が籠ったお守りって実質魔道具と同等だと思うけど」


碧がにっこり笑って親指を上げて見せた。

「大丈夫。

陰陽師系の旧家が総力を上げて魔道具や符の『製造と販売の自由』を守ったから、そちらは規制はないよ〜」


ははは。

旧家の連中が退魔協会の幹部ポジションを握っていても、一つの家系が独占している訳では無いから販売先を協会に絞りたくなかったのかな?

まあ、良かった。








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