第152話 お守りと治験

結局、3通りに出力を調整した睡眠符を入れたお守りモドキを3人の協力者に渡し、日曜日も午前中にがっつり雑草を収穫して私たちは東京に帰った。


ちなみに、聖域にあった『物置』は私の実家にあったような金属の棚と小屋の中間の様な物ではなく、壁を漆喰(?)で塗り固めた洞窟に扉が設置されたスペースだった。

かなり昔に先祖が整備した場所らしい。

まあ、考えてみたらここで収穫した素材を置く場所は昔から必要だったよね。


『物置』と言う名称はかなり疑問だと思うが。

イマイチ藤山家の感性がわからん。

それとも田舎だとこう言う場所も含めて物を置くスペースを物置って言うんだろうか?


それはさておき。

「そう言えば、碧はテストしなくて良かったの?」

家に帰ってから気になっていた事を碧に尋ねた。


睡眠と言うのは体調や気圧や気温などによっても左右される。比較的長期なテストが必要なので、今回は被験者に試作品を渡して試用とその効果の記録を頼んだ。

だが、肩凝りは多くの人が日中も感じている症状だ。

さっさとテストが出来ると思うのだが、やっている様子がなかった。


色々と家の手伝いとか私の被験者との話し合いに付き合ったりで忙しそうだったので何も言わなかったが、テストをしやすいからと私を優先させてくれたのかな?


「肩凝り用のお守りなら以前からお小遣い稼ぎに作って近所の人に売っていたから、今更テストは要らないかな。

まあ、疑うと効果に違いがあるっていうなら普通の人に使う際の効果を調べた方が良いかもだけど」

帰宅した途端に飛びついてきた源之助を抱き上げて撫でながら碧が答える。


あ、既に過去に売ってたのね。

聖域の雑草の有効期間もそこから得たデータなのかな?

「う〜ん、信じていない人へのテストは難しいかなぁ。

『気のせい』で済まされる可能性が高そうじゃない?

かと言って個人的に知っている相手にまともに効果があると思われて、褒めてるつもりで身バレするような書き込みをネットされたらウザいし」

碧は私と違って家族に力を隠していないとは言え、ネットで変な噂が流れてその情報が変形していったら怖い。意外と他人の情報に関して、何も考えずに漏洩する人っているみたいだからなぁ。


それこそ『あの人超能力者なんだって〜』とか『新興宗教の教祖らしいよ〜』なんて話になりかねない。

普通の友達付き合いする相手が激減し、代わりに頭がおかしいのに付き纏われたりしたら悲惨だ。


私のお守りにしても、退魔師とかの存在を信じていない相手にはテストは出来ないが・・・しょうがない。

まだ、『お守り』の方が日本人だったら漠然と御利益があるかもと感じて何も調べずに受け入れる可能性がある。


「そうだねぇ。

実家の方だったら神社の娘だから『お守り』って形だと効果があってもそれ程騒がれなかったけど、確かに東京で大学の知り合い相手とかに渡して変な噂が流れたり、ヤバい人に仲間認定されたりしたら嫌だね」

一通り碧の顔の匂いを嗅いで満足し、腕から飛び降りた源之助にリボンを振って構いながら碧が答える。


おいおい。

大学の知り合いを被験者にするのはまずいっしょ。


とは言え、確かにそれ以外だと青木氏関連の知り合いとかになりそうだから、それだったら退魔師の事を知っている人が殆どであまり意味がないか。


「じゃあ、青木氏の知り合いとやらにに安眠祈願のお守りを何通りか渡してテストするとして、肩凝り解消の健康祈願のお守りはもう作って神社の方で売り出す?

別に私のお守りとタイミングを合わせなくてもいいんじゃない?」


第一、肩凝りに悩む人は多いので、そっちの方が潜在的顧客層は広い。

先に『効くらしい』と人気になっていたら、安眠祈願も売り出した時に買おうと考える人が多くなるかも?


「そうだね〜。

退魔師の案件を適当にやっていたら十分お小遣いになったから、大学生になってからは特にお守りを作って売り出す必要性を感じなかったけど、将来的に退魔協会との関係が拗れても困らないように代替的な収入源は確保しておく方がいっか。

日常生活に支障が無い程度にお守りを作って売り出したらどのくらい儲かるかも確認する為に、ちょこっと始めてみるわ」

ブンっとリボンをソファの上に引っ張りあげて源之助を誘いながら碧が答える。


収納符とかも収入源になりそうだけど、結局あれも売るのは退魔協会経由だからねぇ。

出来れば退魔協会を経由しない収入源も確保したい。


「そう言えば、碧の神社ってお守りが効き目ありって評判になりつつあるって言ってた気がするけど、他にも何か売ってたの?」

確か最初の頃にそんな事を言ってなかったっけ?


「あ〜。

近所で作った和紙を使っているから微妙に魔力が含まれていて、真面目に書いたお守りだと多少は効果が生じるんだよね。

気のせいかも程度の事が多いけど。

たまに何かの偶然で妙に効果が高いのが出来ちゃっても気にせず売ってたからそのせいみたい」

碧が肩を竦めて答えた。


なるほど。

地産地消っぽくやっていると多少は聖域からの魔力が含まれるのか。

お守りの紋様なり文字なりに効果があると言うのはちょっと意外だが。

まあ、古くからある伝統だろうから、完全に効果がないのを使うよりも良心的だね。


まあ、それはさておき。

折角販売できる環境が既にあるのだ。

将来的にはネットでグッズを売る方が数を捌けそうだし単価も上がりそうだが、まずはお守りでいってみよう。

私はまだ治験モドキが必要だけど。




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