第134話 罠?
碧がぼわっと霊力を込めて浄化して呪詛返しが消えた後、私が対象者(呪詛返しなら被害者って言うのとはちょっと違うよね)の魂を確認する。
呪詛って言うのは本来やらない方法で魂から力を抽出して攻撃に使う手段の一つだ。
魔術が魔力を使うのに対し、呪詛は主に生命力や寿命を使う。
しかも術者が下手くそだったりタチが悪いと変な風に魂に傷口が残り、そこに悪霊や悪き何かが取り憑きかねない。
なので呪詛返しをする時や、呪詛返しを祓う場合は事後のケアも重要だ。
まあ、そこまで今世の退魔師がやっているかは知らないが。
一応私は後から変な事になったと聞いてもやもやしたく無いので、前世では普通にやっていたアフターケアはするつもり。
呪詛返しだったせいで、かなり『お嬢様』の魂には傷がついていた。
と言うか、呪詛関連だけじゃないっぽい傷もある?
魂は精神と肉体に強く繋がっているのでどちらかが深く傷つくとそれが反映されるようにもなるのだが・・・どうしたんだろ?
「すいません、呪詛と呪詛返しだけとは思えない程魂がボロボロになっている様ですが、何があったのかちょっとお伺いしても良いですか?」
成人しているのだから親の虐待って言うのは無いと思うが・・・。
呪詛関連の傷のせいで分かりにくいが、子供の頃からの虐待の傷と言う程古くは見えない。
「魂に傷なんてつくんですか・・・。
よくある、職場でのイジメなんですけどね。
最初は部署移動で移ってきた女性に変な噂を広められたり、上司や同僚からの連絡を止められたりとか言った嫌がらせを受けていただけだったにですが、いつの間にか他の同僚からも仕事を押し付けられたり、足を引っ掛けられたり、お茶を書類に零されたりするようになって・・・。
父とは関係なく見つけた仕事だったのに親の七光で他の人間を押し退けて入ってきたコネ入社だって噂が流れて、気がついたら職場全体からのイジメになっていました。
七光じゃないって証明するためにも弱音を吐けないって無理をしていたんですが、とうとう身体を壊して辞めました。
魂ってそんな事でも傷がつくんですかね?」
ボソボソと『お嬢様』が答えた。
おやま。
こんなお屋敷に住むような人でもイジメの対象になるとは。
嫉妬って怖いね。
「ちなみに呪詛はどう言う経緯でかけたのです?」
確かに丑の刻参りのような、執念で成立させる呪詛もあるが、この女性にそこまでの体力と気力があったようにも見えない。
恨むと言うにはそれなりにエネルギーが必要なのだ。
金さえあれば若いお嬢様が呪詛をできる人間を見つけて発注できる訳でもない。
反対に、これだけの豪邸なのだ。
もしも父親とかが手を貸したのだったら呪詛返しをしっかり他に転嫁しそうなもんだろう。
女性が力なく首を横に振った。
「この不調が呪詛返しだと言われて、いつ誰を呪ったのかと父にも聞かれましたが・・・呪詛なんて、実在するとも思っていなかったんです。
私のイジメを始めた人を憎んだし、彼女の話を信じて私を排斥して笑いながら嫌がらせをする様になった元同僚たちも恨みましたが・・・その程度で呪いになるんですか?」
まあ、黒魔術の素養ありで滅茶苦茶強いストレスが掛かったのなら可能性はゼロでは無いが・・・彼女に黒魔術の素養はない。
「何か、呪い関係の本でも読んで試してみたとか、紙人形に呪いを込めて破いたとかは?」
碧が口を挟んだ。
なにそれ??
そんな読むだけで呪いを成功させてしまう様な本は、退魔協会の方で取り締まるべきだろう。
政府の方だって政治家や官僚が有象無象から呪い殺されては困るからヤバい本やサイトの禁書化には協力しそうなものだが。
「・・・会社から持ち帰った荷物に、最初に嫌がらせを始めた女性を思わせる紙人形が入っていたので思わず『彼女の本性が皆に知れ渡ればいいのに!』って言いながら破いて捨てました」
『お嬢様』が答える。
「それってまだ残っていますか?!」
家政婦さん・・・じゃなかった、執事の中田さんに碧が詰め寄って尋ねる。
「お嬢様が倒れられてから、出来るだけお邪魔をしない様にと清掃の人間は部屋に入らない様に指示したのでまだゴミ箱に残っている可能性があります」
中田さんが素早く廊下に出てなにやら布を持ってきて広げ、お洒落な箱(ゴミ箱なのか、あれ!?)を手に取って中身を出した。
「あ、これかな」
微妙に呪いの穢れた魔力が籠った紙を見つけ、指先で拾い上げる。
呪いとも言えない様なお粗末な呪符だ。
破いた人間の命を使って、望んだ内容を実現化しようとする物だが・・・。
肝心の呪詛よりも、その依代である紙人形を『嫌っている相手に似ている』と誤認させる為の偽装の術の方によっぽど手が掛かっている。
これだったら普通に健康で気力が満ちている人間だったら呪いを受けても影響が出るまでかなり時間が掛かりそうだし、近所の神社でお祓いすれば返せる可能性が高そうだ。
「嵌められましたね。
最近タチの悪い呪詛用の粗末な紙人形が出回っているという話を退魔協会の方でも聞いたのですが・・・これは安易に呪詛を掛けさせる道具と言うよりも、呪詛とすら思わせずに呪詛を完成させて呪詛返しを引き起こす為の罠と言っていいと思います」
碧が私の手にある紙人形をじっくりと観察してから、言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます