第51話 訳アリ物件??
「ちなみに、凛って料理するの?
ちゃんと台所が欲しいって不動産屋に言うべき?」
何やらタブレットを弄りながら碧が聞いてきた。
「一応?
今は寮だから食事は出るけど、出たら自分でそれなりに作ると思うよ」
外食ばかりだと味が濃すぎて胃が疲れる気がするし、何と言っても高くつく。
ちゃんと高校時代に現代日本の台所機器と調味料を使った料理方法も母親から習ってある。
長谷川家風な味付けになるが、一応自炊は出来る、筈。
「そっかぁ。
私は基本的に殆ど調理済みなセットをお皿に出して温める程度しかしないんで、ここを探した時は冷蔵庫と電子レンジを置くスペースがあれば良いって言ったんだけど、今度はちゃんと台所付きって指定した方が良さそうだね」
このマンションには一人暮らし用にしてはコンロが2つもついているそれなりな台所があるのだが、碧の希望ではなく単なる偶然だったらしい。
「まあ、ファミリータイプの部屋だったら何も言わなくても台所は付いてると思うよ?
それよりも、私としてはトイレとお風呂場が一緒になってる一体型は嫌かな。
それに洗面所とトイレが別じゃ無いと朝とか厳しいと思うし」
ただでさえ女二人で洗顔やメークに時間が掛かるのに、トイレの時まで洗面所から追い出されるとなったら確実に時間が足りなくなるだろう。
それに夜にゆったりお風呂に浸かってリラックスする時、横からトイレの臭いが漂ってくるのは嫌だ。
「あ〜、確かにね。
そう言えば、私は毎日絶対にお湯を溜める主義だから。
シャワーで済ます派だったらちょっと水道代や光熱費に関して要相談かも」
タブレットから目を上げて碧が言う。
「いや、私も風呂好きだからいいんだけど、時間的制約を考えると追い焚き機能のあるお風呂じゃないと厳しいかもね。
それとも台所でお湯を沸かして熱湯を足せば、時間が経って少し冷めてても入れる様になるのかな?」
黒魔導師時代は城の寮もどきなスペースで暮らしていたので共同の大浴場だったし、寒村時代は風呂なんて夢のまた夢だった。
今世の便利な追い焚き機能付き風呂は正しく夢の様であり、あれだけは出来れば諦めたく無い。
碧がこてりと首を傾げた。
「どうだろ?
まあ、それなりに築年数が浅いマンションだったら追い焚き機能は付いてるんじゃ無いかなぁ?
でも、確かに重要だね」
疲れて帰ったら直ぐに風呂に入って寝たい時もあるだろう。
そう考えると追い焚き機能が無い同居人との暮らしは厳しいかも。
追い焚きしないで済む様にタイミングを合わせて入った方が光熱費は節約できるんだろうが。
「まあ、それは良いとして。
トイレは?
ウォッシュレット派?」
碧が続ける。
「水洗トイレだったら別にどうでも良いよ」
今時水洗でないマンションのトイレなんて無いだろうが。
それとも開発途上国とかだったらあるのかな?
いや、平屋じゃない限り、ちゃんと流さないと汚物が詰まるか。
「そっかぁ。
転生すると水洗じゃないトイレも多いんだね・・・」
微妙な顔で碧がタブレットに何か書き込んでいく。
「取り敢えず3LDKでリビング最低限8畳、他の部屋は6畳程度で良いかな?
出来れば仕事部屋はリビングに繋がった和室だと、相談しながら仕事とかしやすそうで良いと思うけど・・・まあこれは出来ればと言う事で」
「そうだね、その方がずっと付き合って貰わなくても必要に応じて相談しながら作業出来て良さそうだし、冬は炬燵を置けそう」
炬燵には魔の引力があるが、中に入って仕事をすれば一石二鳥だと思おう。
墨を零さないように工夫は必要だが。
「良いね、炬燵!!!
あ、そう言えば、ペット可の物件にしておこう。
時折炎華や白龍さまが視える人がいるから、モフモフを見かけていちゃもん付けられると面倒そう」
窓辺に置いた椅子の上で大きなクッションの様にふくふくになって日向ぼっこしている炎華を見ながら碧が言う。
雀サイズまで縮めば見られても大丈夫なのだろうが、どうも日向ぼっこして太陽の恵みをたっぷり楽しむのには大きめな猫程度のサイズが良いらしく、基本的に炎華は碧に何か頼まれない限り大きな丸いモフモフなクッションの様になって寝転がっている。
日向ぼっこのために窓辺にいることも多いので、確かに目撃されたらペットと誤認される可能性も高そうだ。
よく見たら鳥(一応)なんだけどね。
まあ、鳥だってペット不可なマンションだったらダメな事に変わりはないか。
実際には動物はいないしカメラにも映らないんだから、いちゃもんを付けられたところでどうにかなる訳では無いだろうが・・・ウザいオバさんとかに目をつけられないに越した事はない。
「じゃあ、この条件で、丁度良い訳アリ物件が無いか、知り合いの不動産屋さんに聞いてみるね!」
明るく碧が言った。
え?
訳アリ物件??
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