第42話 合宿だ〜!:聖域
温泉から出たら夕方の5時半過ぎだった。
冬なら真っ暗だが、真夏の今ならまだあと1時間半から2時間は大丈夫だろうと言う事で聖域へ。
まあ、碧は肉体強化系の暗視の術が使えるし、私も霊視の術を使えばそれなりに暗闇でも歩けるから、暗くなってもそれ程問題はないんだけどね。
と言う事で『一応涼しくなっても良い様に』とカーディガンを突っ込んだ鞄を手に、聖域の方へ。
クルミの分体をパワーアップするにしても、メインのクマの方も持って行った方が良いだろうと言う事で、鞄ごと持っていく事にしたのだ。
ストラップだけ外して持っていくってちょっと怪しいし。
「ちなみに、何故に猫の霊なのにクマ?」
聖域にはいり、人目が無くなったので改めて本体で挨拶したクルミがクマの躯体を動かしてぺこりとお辞儀したのを碧は目を細めて愛でながら尋ねる。
「偶然?
15歳の誕生日に記憶が覚醒して、何が出来るかを確認するついでに手頃な霊に使い魔契約を持ち掛けたんだけど、持ち運べるサイズの猫のヌイグルミやオモチャは持って無かったんだ。
後から分かったんだけどプラスチックのオモチャじゃあ全然魔力保持量が足りないんで、綿入りヌイグルミのストラップを選んだのは偶然だったけどラッキーだった」
ヌイグルミの中身も低反発ウレタンが多く、後から猫のヌイグルミを幾つか買ってみたのだがどれもウレタンで魔力がほぼ素通りしてしまうのでクルミの移転先には使えなかったのだ。
最初にウレタンの猫ストラップを入手して躯体に使っていたら、下手をしたらクルミは翌朝までに魔力切れで消滅していたかも知れない。偶然あのクマを選んだのは私にとってもクルミにとっても中々ラッキーだった。
『さて。
儂はちょっこら幻想界に戻って『ふくふく』とやらな眷属を探してくる。
凛は好きなように石なり木材なり骨なりを拾って使うが良い』
白龍さまが声を掛けてきたと思ったら、姿を消した。
そして一瞬、ぶわっと物凄い高濃度な魔素が流れ込んでくる。
なるほど。
直接幻想界への境界が開きっぱなしだったら今の地球の生態系では生存出来ないぐらい魔素が濃くなる。
ここの様に普通に雑草が生き残れ、かつ3ヶ月術が維持されるほどの魔素を蓄えているとは一体どうやってるんだ?と思っていたのだが、白龍さまが幻想界へ出入りする度にあちらの空気と魔素が流れ込んでくるので十分らしい。
結界で幻想界の空気が外へあまり広まらないようしているせいで、適度に魔素の濃度が高くなって魔力含有量の多い素材が出来上がっている様だ。
霊視の術を掛けて聖域の中を歩き回る。
都合よく宝石や水晶の原石が水に流されて川底に転がっていない限り、骨が一番魔素の保持能力的には良いのだが・・・偶然瀕死な鹿でも迷い込んでここで死んでいない限り、加工するだけのサイズの骨はなさそうだ。
ピンバッジサイズの分体でも、ネズミや小鳥の骨で作るのはちょっと厳しい。
頭蓋骨で面積は何とかなるのだが、厚みが足りないのだ。
普通の石でもそれなりに魔素に染まっているのがゴロゴロ転がっているので、贅沢を言わなければなんとでもなりそうだけどね。
もっとも、総量は多くても濃度は素材の質に左右されるので、ピンバッジサイズだと十分な魔力をキープするのは厳しい。
木材の方が良いかな?
ここで魔素を吸収しながら育って、何かの弾みに折れたか枯れた枝が必要というのがネックなんだけど。
「お!」
そんな事を考えながら地面をしらみ潰しに霊視で確認していたら、かなり明るい魔力の光が見えた。
「何かあった?」
「あるっぽい?」
川辺の砂利を掘り下げながら答える。
普通の川辺で石を退けたりすると色々と見たくない虫とかが出てくるのだが、ここまで魔素が濃いと小さな虫には生きづらいのか、あまりいない。
まあ、代わりに魔素が濃厚だと生命力の強い百足やGが巨大化する事も稀にあるので、警戒と心の準備は常に必要だが。
用心深く掘り下げた先にあったのは拳半分程度の石英だった。
よくぞ割れなかったもんだ。
それとも、もっと大きかったのが割れた結果がこれなのかな?
どちらにせよ、良い感じに濃い魔力を溜め込んでいる上に、小さい。
『光ってるにゃ!』
クマのクルミが興奮した様に鞄の縁で跳ねた。
光りモノ(と言っても魔力が霊であるクルミに輝いて見えているだけなんだけどね)が好きだよね、この子。
「へぇ、良さげだね」
覗き込んでいた碧も納得したように言った。
「水晶の加工は難しいから、どっかに頼んでピンバッジかピアスっぽい形に加工して貰わなきゃ」
「あ、良い職人知ってるよ。
明日にでも行ってみる?
オーダーさえしちゃえば完成品は宅急便で送ってもらえるから」
便利な世の中だよねぇ。
「ちなみに、ここで白龍さまを待っていた方が良いのかな?」
眷属を連れてくるなら、ここで契約しないと街中に連れ込むと問題が起きかねない。
とは言え、幻想界の住民の時間感覚はかなり大雑把なので白龍さまが夕食の時間までに帰ってくるか、微妙だ。
「う〜ん、どうだろ?
っていうか、白龍さまが『ふくふく』を理解しているか私は不安なんだけど。
もっとこっちのイメージを聞いてくるかと思ってたのに、何も聞かずに戻っちゃったし。
・・・想定外なのがきた場合に直ぐ送り返せるよう、ここにいた方が良い気がしてきた」
「確かに」
幻獣って大きいのが多いからねぇ・・・。
平均的なサイズの幻獣が街中を飛んでいたら大騒ぎになる。
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