第29話 符作成の心得:分割払い?
「まあ、それはさておき。
心得の4は・・・ちゃんと霊力を保持できる質の良い素材を使わないと、失敗するどころかポケットに入れてたのが破損して発火したりする事もあるから要注意ってとこ。
そんでもって心得5は、文言でも素材でも改善は常に可能だから、現状に満足せず挑戦し続けろって云う激励?」
『新しいことは試すのは、まずしっかりと理解を深めてからじゃぞ』
白龍さまがすかさず口を挟む。
確かに、行き当たりばったりに試行錯誤は危険だろう。
まあ、これだけ魔素が薄い日本だったらそれ程大惨事にはならない気もするけど。
・・・いや、碧の場合はうっかり白龍さまの聖域でがっつり魔力の籠った物を拾う可能性があるか。
ほんの数年程度聖域で育った
古い大木とか長生きした動物の骨とかはかなりの物になりそうだ。
「心得はこんなところね。
ある意味常識的で当然な注意事項なんだけど、日常生活に埋もれるとつい忘れるから私は毎回符を作る前に読み直す事にしているの」
碧が説明を終えて付け加えた。
確かに、常識っぽい良識は金儲けや研究心に駆られると忘れ勝ちになるね。
「そうだね、私もそれをコピーさせてもらって良いかな?
作業場の壁にでも貼るわ」
学生寮の部屋であれを貼ったらちょっと面倒な事になりそうなので、寮を出てからだが。
「では実際の符作成ね。
まあ、基本としては霊力を保持できる紙に霊力で紋様や文言を書き込むだけなんだけどね。
慣れてきたら直接霊力で書き込んでも良いし、慣れるまでは前もって霊力を込めておいたインクなり墨なりで書けば良いの」
碧が説明しながら和紙を1枚ローテーブルに広げ、小さな犬の格好をした文鎮で四隅を押さえた。
中々可愛い。
碧は犬派なのかな?
「符の威力は何で決まるの?」
「霊力で直接書き込むんだったらその時込めた霊力、墨で書くならそっちに注ぎ込んだ霊力の量ね。
紋様とか文言によって効果が多少は上下する事もあるけど。
ちなみに書き込まれる和紙の霊力が込められる霊力の最大値で、この和紙の霊力が符の効果を維持するの。霊力は徐々に抜けていくから・・・この和紙でも2年ぐらいで使えなくなるかな」
説明しながら和紙が入っていた箱から今度はびっくりするぐらい力の籠った硯と小さなペットボトルを取り出し、碧が徐に墨を磨り始めた。
「なにそれ??
なんかその硯で殴ればほぼ全ての悪霊が退治できそうじゃない?!」
和紙なんて目じゃない程の霊力が籠っている。
前世の標準だと幻獣クラスの骨に匹敵しそうだ。
「退魔用に力一杯霊力を込めた符を作るのはいいんだけど、販売用のをそこそこしか霊力を込めない様に制限するのって中々難しいのよ。
だから私は販売用の符を作成する時は直接霊力で書くんじゃなくて、墨に含まれる霊力でコントロールしてるの。
ちなみにこの硯は、昔白龍さまが寝ぼけて御影石の石像を変な風に噛みついた時に折れた牙を削って作った物なんだって」
牙一本でこの硯になるんかぁ・・・。
やはり白龍さまの本体は大きそうだ。
そして魔力量も凄い。幻獣のトップクラスだ。
流石は氏神さま。
「で、こんな感じに一気に書き上げるの」
中々見事な手つきで碧が和紙の上に筆で何やら書き込んだ。
紋様かと思ったが、崩した草書体の文字かも知れない。
「ちなみに、紋様でも文言でも良いって言っていたけど、文言は呪文だとして紋様はどう決めるの?」
文言だったら誰かに弟子入りしなければどうしようも無い可能性が高いが、紋様が魔法陣で良いなら力の込め方とか使用制限とかについて教わればなんとかなるかも?
「紋様は力のある象徴的な形だと言われてるの。
歴史を重ねる間に色々な文言の偽装と模倣を繰り返しているうちに偶然見つかったものが多いんだけど、もしかしたら凛が使ってる魔法陣とかでも代替出来るかもしれないから試してみれば?」
筆を下ろしてふうっと一息つき、お茶に手を伸ばしながら碧が答えた。
「やってみる。
ところで、偽装と模倣ってどんなことをするの?」
前世では新しい魔法陣は特許登録されて、魔道具を製造もしくは販売する人間は全員例外なく『正当な特許使用料を払う』と言う旨の誓約魔術を受け入れなければならない。
代わりに使用料さえ払えば好きなように誰の魔法陣でも使える仕組みになっており、黒魔導師である私が奴隷同然にこき使われた事からも分かる様に、あの世界での誓約魔術は強力でほぼ無効化出来ない拘束力を持っていたので、魔法陣を隠す慣習は無かったのだ。
「紋様なり文言なりは、一気に書かないで後から付け足した部分は起動する際にスキップされるの。
だから、一息ついてからまた霊力を込めて適当に偽装用の模様や文字を付け加えれば、起動時には無視されるけど他の人が全部を真似ると滅茶苦茶になる符が出来上がる訳。
墨が乾く頃には書いたタイミングの違いは分からなくなるから、模倣したい人は片っ端からそれっぽい文言や紋様のところを霊力を込めてなぞって試行錯誤するらしいよ。
運良く正しい文言や紋様が見つかる事も稀にはあるみたいだけど、それよりは偶然なんらかの効果がある紋様や文言の一部だけが見つかる事の方が多いんだって」
先祖代々色々な文言や紋様を受け継いできた旧家らしく、碧は他人事の様に鷹揚に教えてくれた。
「・・・つまり、私の収納の魔法陣が紋様として使えない場合、私も似たような試行錯誤をしなくちゃならない訳??」
ちょっとげっそりしながら尋ねる。
「いや、そこは諦めて退魔協会にお金を払って収納の符作成だけ教えてくれる人の紹介をお願いするのが現実的だと思う」
碧が苦笑しながら答えた。
「良かった、お金で解決するんだ。
分割払いとか、出来るかな?」
退魔師の事をまだ親にどう説明するか決めかねているので、実家を頼るのは難しい。
「多分?
あんまりにも協会の条件が悪かったら、お金を借りれないかウチの両親に交渉してみたら?
私と組むんだから、協会に変な借金を負ってない方がいいと思うし」
確かに!
持つべきモノは、頼りになる保護者と理解のある実家持ちのパートナーだね!
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