第30話 符作成:見本(ラミネート済み)

「さて、まずはウチにある符の文言から試してみる?

それとも凛の魔法陣からいく?」

先程書き上げた文言が乾いたのを確認したあと、なにやら芸術的な紋様や文言を書き足した碧が聞いてきた。


「う〜ん、ちなみに碧の家に伝わる符って何系統?

回復や元素系以外の、スリプルとかデバフ系のがあるならまずそっちから試してみたい」

適性が無い分野の符作成を試して失敗しても、適性が無いからなのかやり方が悪かったのか、区別が付かない。


もしも碧の家に黒魔術系の符に使う文言や紋様があるならそれで成功するまで練習し、その後に元素系や回復系の符も試していきたいところだ。


白龍さまのような強力な守護者もなしに回復系の符を作って売るなんて危険な事をする気はないが、来世では自分の回復用には何枚か作って収納に常備しておきたい。


とは言え、現代日本の様に特殊な聖域の素材を使わないとダメとなると厳しいが。


「う〜ん、どうだろう?

ウチの家系って回復か水系統が多いんだよねぇ」

そう言いながら碧がパラパラと大学に授業で使う様なファイルを捲り始めた。一応外側はちょっと立派な革張りっぽくなっているが、それなりに新しそうだ。


「それって家伝の符に使う文言や紋様?」


「そう。

大分とお手本がボロくなってきていたから、習い始めた時にまとめたの!

デジカメで撮ってプリントしたのをラミネーターで保護しているから、これなら子孫の時代まで安心でしょ?」


ラミネートされた符のお手本。

確かに汚れたり破れたりしない、素晴らしい文明の利器の使い方だが・・・なんかロマンが無い。


だが、それより。

「符の文言とか紋様って態々偽装するほど重要な秘匿情報なんでしょ?

そんな気軽に持ち歩いて良いの?」

碧を襲う人間は白龍さまが撃退してくれるだろうが、うっかり大学や電車の中で忘れたりしたら大問題なのでは無いだろうか?


こう言う場合、リスクを最小化する為にも必要な情報だけを持ち歩く方が無難な様に思えるが。


「大丈夫だよ〜ん。

どっかで落としても大丈夫な様に、藤山家ウチの人間しか開けない様に白龍さまが術をかけてくれたから」

パラパラとラミネートしたページを捲りながら碧が答える。

なる程。

落としたり無くしたりするリスクにはちゃんと対処してあるのか。


「血族用魔道具ってやつにしたんだ?

それって『藤山家の人間』ってどうやって識別させてるの??

DNAだと親の遺伝子って世代を過ぎる度に半分は他の家系の遺伝子が入ってくるじゃない?

厳密な男性家系だったらY染色体の遺伝子ならずっと藤山家のが綿々と続くだろうけど、娘はその遺伝子そのものを持ってないし、婿を取っちゃったらその時点で一発アウトだし。

ナニソレ家の血ってどう言う基準で識別しているのか、実は興味があったんだよねぇ」

思わず符をそっちのけで尋ねる。


特定の人間の遺伝子に50%合致とか、75%合致なんて言っていたら、近親結婚のやり過ぎであっという間に健康な子供が産まれなくなるだろう。

と言うか、本人の息子ですら50%は関係ない家系の遺伝子から出来ているのだ。

従姉妹と結婚でもしない限り、孫だと25%。

条件が厳しすぎる気がする。


前世でも『王族だけが使える魔剣』とか、高位貴族の『一族に伝わる魔道具』とかあったのだが、今世で覚醒後に生物の授業で遺伝子の事を習って以来、あれらがどう言う仕組みで一族を識別しているのか、不思議に思っていたのだ。


『儂の唾がついている人間が藤山家の者じゃ』

あっさり白龍さまが答えた。


「え?!

唾なんて付けてるの???」

碧が嫌そうに言った。


「唾というよりは、加護って考えれば?」

どうやら白龍さまは藤山家で子供が生まれる度(もしくは子供が一定の年齢になった時?)に加護を与えているらしい。

可愛がっているのは碧だけじゃないのか。


過保護な氏神さまだね〜。

それとも、大昔の碧の先祖と何か契約でもしたんかね?


でもそうか、幻獣とか先祖の霊とかと契約して、『一族の子と認める儀式をした際に加護を与える』ようにでもすれば、『血族専用』の条件付けは完成だ。遺伝子とか血が濃くなり過ぎる事とか心配しなくて良くなる。

外に嫁や婿に出た人間の子には一族に迎える儀式を行わないから血族認定から自動的に外れるし。ある意味『血族』と言う言葉に語弊はあるか、なかなか使い勝手の良いシステムかも知れない。


とは言え。

幻獣はまだしも、先祖の霊だとすると一定以上の魔力があるか、黒魔術の適性が無いと視えない。

気をつけないと先祖の霊の事を忘れて、過去の契約がうっかり放棄されるなんて事になりそう。


是非ともあのロクデナシ王族達がそんなうっかりをやらかして、困った羽目になる日が来た事を期待したいところだ。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る