第12話 リサーチ派と検証派

歓迎会で討論しまくった碧やその他にメンバーとは気が合ったので、結局私はラノベ生活クラブに正式入会した。


今日も午前中の授業が終わって部室に足を運んだのだが・・・碧と数人の先輩が先日やっと届いて籠編みを始めようと準備していた稲藁を何故か片付けていた。


「どうしたんです、八幡先輩?

ちょうどこちらを振り向いた先輩に尋ねる。


「リサーチ派が、他の人が部室を使うのに邪魔だから毎回活動の後には片付けて箱にしまっておいて欲しいって」

溜息を吐きながら先輩が答えた。


このラノベ生活クラブは理系の実験オタクが始めたサークルで、最初は硝石や苛性ソーダの生産の様な中々凄い理系な実験をしていたらしい。

とは言え、硝石を『戦国時代での転生を考えて』本番ちっくな原始的道具で作ろうとしたところ、時間が掛かり過ぎた上に臭いに関する苦情も大学に多数寄せられたらしく、諦めて現代器具を使い始めたので苛性ソーダの生成はそれなりに安全性に考慮したものになったとの話だった。


その後、女性や文系のソフトオタクも入ってきた事でパンを膨らませる酵母作りとか和紙作りと言った比較的無難な実験に移行し・・・ここ数年は実際に作って検証しようとする検証派と、ネットでリサーチだけして後は仲間内でワイワイ楽しく盛り上がるリサーチ派に分かれてきたらしい。


先日私や碧が加わって話が盛り上がっていた八幡先輩等の率いるグループは検証派。


ハーレムご都合主義てんこ盛りラノベのファンな先日の男子先輩の様なのは当然、リサーチ派だ。


「リサーチ派もいるお陰で大きな部室を充てがわれているから、彼らにも部屋の使い道に関して口を出す権利はあるんだけどねぇ・・・」

溜息を吐きながら八幡先輩が小さく呟く。


「部費は全部飲み会に使っているんだし、この部室だって自分達が飲み会に行くまでの待ち合わせに使っているだけじゃないですか、あの連中。

天気が良いんだから外で屯ろしてりゃ良いのに」

思わず毒を吐く。


入手して判明したのだが、藁は意外と長くて場所を取る。

なので邪魔だとクレームが来たのだろう。

将来的に石鹸作りを試す為に灰を入手したりする為にも、色々揃っている実験室を兼ねたこの部室を使う権利に直結する部員の数は迂闊に減らせないのが実情だった。


「考えてみたら活動の後にちゃんと片付けろって話ですよね?

これから我々が活動するんですから、夕方に帰る際に片付ければ良いでしょう。

流石にあいつらだって自分達が飲み会に行くまでの間屯ろするのに邪魔だから正規の活動をするなとは言えない筈」

それこそ、そこまで図々しく主張してきたら思考誘導を使ってでも追い払ってやる。


ふうっと八幡先輩が大きく息を吐いた。

「そうね、彼らの本音が『自分達の邪魔をするな』だとしても、口に出したのは『活動して無い時はきちんと片付けてくれ』だものね。

皆、片付けるのは帰る前にして、サークルの本来の活動を始めよう!」


◆◆◆◆


「私のお願いの仕方が悪かったみたいで最近同じサークル内なのにギクシャクしちゃってるから、ちょっと遅いけどみんなで親睦会を兼ねてお花見にでも行かない?

元樹達が場所の確保に行ったから、綺麗な遅咲きの八重桜が見える場所を確保できてると思うわ」


スペース紛争(笑)から数日後、リサーチ派の女の一人が我々に声を掛けてきた。

美人なのだが・・・何人かを取り巻きにしてちょっと女王様プレイっぽい態度で部室を独占したがり、かなり迷惑な女だ。


どうも自分達のサークルの部室内で我々が野暮ったい藁編みなんぞをしているのが気に食わないらしく、今までは男達の目がない時には憎々しげにこちらを睨んでいただけだったのだが。

何を企んでいるのやら。


精神感応しても、さらっと読んだ限りでは八幡先輩と我々への不満と蔑視の思いが見えるだけで、過去に相談した思われる悪巧みは直ぐには見えてこない。


悪巧みを企んで実行する際って何をやるか考えてワクワクする人も多いのだが、どうやらこの女はあまり何事も深く考え続けないタイプらしい。


『クルミ、ちょっとこの女にくっついて行って、悪巧みの話をしたら合流した際に内容を教えてちょうだい!』

鹿の角で作った小さなピンバッジの飾りに憑けたクルミの分体を、女が背中を向けた瞬間に飛ばす。


情報収集手段としてピンバッジサイズのクルミの分体を作った際に指弾ちっくに飛ばすのをそれなりに練習したのが功を奏し、ちゃんと背中にピトっと良い感じにクルミの分体が貼り付いた。


『ガッテンにゃ!』

どうやったら魔術を悪事に使わずに収入に繋げられるかと色々考え、探偵になった時用の盗聴器モドキな感じに造ってみたミニ分体だが、今まで試す機会がなかったのでクルミも張り切っている。


諜報手配に満足して振り返ったら、碧が妙な顔をして私を見ていた。


ピンバッジを放ったのを見られた?

一応ピンバッジに認識阻害の魔法陣を付与してあるから、注視していたとしても私が妙な感じに指を動かしただけのが見えただけの筈なんだけど。


「どうかした?」


「ううん。

遠藤さんは散々私たちの事を貶していたのに。

何を計画しているんだろうね、あれ?

リサーチ派の男どもは彼女の言いなりだから、彼女が主導しなければサークル内の親睦会なんてあいつらが手配するとも思えないけど・・・」


「女王様プレイをしたいなら、ラノベ好きが集まるサークルなんて入らなきゃ良いのにね。

逆ハー狙いはちょっと違うでしょうに」

思わず正直な感想をいったら、ぶはっと何人かが吹き出した。


「要は、ハーレム内政チートが好きだなんて口に出すような様な男はガキなのよ。

思うように操れるオコチャマが沢山いるサークルとして、ここがお眼鏡に適ったんじゃない?

あの連中が好きなタイプのラノベなんて、2〜3冊読めば大した労も要せずに話を合わせられるだろうし」

溜息を吐きながら八幡先輩が毒を吐いた。

ちょっとストレスが溜まっているのかな?


確かに、ハーレム内政チートに憧れるリサーチ派の精神年齢は幼い感じがする。


勉強さえ頑張れば親に褒められる環境で育ってきた感満載と言ったところか。

あんなのが実際に異世界に転生したら、あっという間に殺されるか、得意満面に内政チートをやろうとして貴族に隷属化されそうだけど。


彼らの為にも、ラノベ世界への転生や転移が起きない事を祈っておいてあげよう。










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