第21話・第一章Ⅶ「魔珠」
ついに魔王様が手傷を負ってしまった。私の知る限り、魔王様がその地位に就かれてから初めてのことだ。魔王様の強大な魔力壁を破っての一撃を加えたあの勇者の攻撃は凄まじかった。今回は本当に危なかった。あの刹那、勇者の斬撃の方が速かったらと思うと今でもぞっとする。戦いを振り返るガイの気持ちは重かった。
「このままではいけない。」次は我々の力を借りると魔王様は公言なされた。もちろん鍛練は続けるが、それだけでいいのか?もっと魔王様の為に出来ることはないか?
気付けばガイは魔将ネレスの部屋の前にいた。コンコン、とドアをノックする。が、返事がない。
「・・・留守か?」
仕方ない、と自室に戻る。・・・何やら騒がしい。部屋の前には、今しがた訪ねに行ったネレス・・・とオードにトレッド、リーン、ローグまでいる。まさかの六魔将揃い踏みだ。
「・・・一体何事だ、これは?」
「おお、ガイ。戻ったか。」
オードが肩をバン!と叩きながら言う。
「何処に行ってたでありんすか?」
リーンが尋ねてくる。
「いや・・・聞いているのは私なんだが。まぁ、いい。ネレスの部屋に行ったんだが、どうやらすれ違いになったみたいだな。」
「あら?私に御用でしたの?」
「ああ、実はなんとか魔珠の都合がつかないか聞きたかったんだが。」
そこまで言うと、他の魔将は顔を合わせ一斉に笑い出した。
「・・・何かおかしいことを言ったか?」
少しムッとしてガイが言う。
「はっはっ・・・いや、すまない。実は皆同じでな。」
「くくく・・・六魔将が同じ考えとは、珍しいこともあるではないか。」
トレッドとローグが笑いながら答える。
魔珠・・・魔石を遥かに凌駕する極めて希少な鉱石。磨きぬけば黒真珠の如き深淵の輝きを放つ、宝石としても非常に価値のあるものであるが、特筆すべきは、無尽蔵とも言える魔力吸収量。ここに強力な魔法を付与できれば、能力の底上げが可能と考えたのだ。
聞けば、皆同じようなことを考えていたが、希少な鉱石ゆえ、宝飾の魔将ネレスの秘宝コレクションをもってしても、魔将の人数分の魔珠は確保できないという。が、ローグの持つ情報網から、鉱石を確保できる目処が立ったらしい。そこで六魔将を取り纏める私に相談にきたというのだ。
「で、私にどうしろと?」
「・・・許可が欲しい。」
一言、ローグが言う。言葉が足りなくて真意が理解できない。
「?いや、魔珠が手に入るなら願ったり叶ったりだが?」
「ローグ殿?魔王さまならまだしも、ガイ殿にそれでは通じませんわ。もちろん私共でもね。」
やれやれ、といった感じでネレスが言う。
「魔珠の鉱石がある場所が問題でして。途中、水晶龍の縄張りを通るんですの。並の者では気付かれる・・・というより、八つ裂きか、消し墨にされますわ。」
水晶龍、龍族に属する高位のドラゴン。上位魔族に匹敵する強さを持つ種族だ。
「成程・・・。で、ローグ殿が直々に向かいたいということか。しかし・・・」
「わかってる。魔将の責任ってもんがあるってんだろ?だが、次に勇者が来るまでになんとかしねぇと意味がねぇんだ。」
オードが言う。確かにそうだ。
「なんとかならないか?ローグ殿不在の間は、私やオード殿でなんとか穴を埋めてみせる。」
トレッドが続く。かつて六魔将がこんなに団結を見せたことがあっただろうか?やはり皆、魔王様の役に立ちたいのだ。
「よくわかった。魔王様へは私から一声かけておこう。龍族に少し怪しい動きがあるので『念のため』オード殿に少し探ってもらっているとな。」
「くくくっ・・・!あのお堅いガイ殿が魔王様をたばかろうとはな!」
ローグ殿がそういうと、皆から笑いが起こった。
「では、決まりだ。オード殿とトレッド殿には、ローグ殿配下の部隊の指揮を頼む。私と共に、勇者の探索と、機獣の掃討だ。」
「ああ、任せろ。」
「心得た。」
ほぼ二人同時に応えてきた。なんとも心強い。
「リーン殿とネレス殿はこれまで通り、機獣についての調査と・・・」
「手持ちの魔珠の加工と・・・」
ネレスが割って入る。
「加工が済んだ魔珠への魔力付与でありんすね?」
リーンも続く。この二人には言うまでもなかったか。
「・・・では行ってくる・・・。すぐ戻る・・・。」
ローグの気配が消える。さすがとしか言い様がない。これなら水晶龍にも見つかるまい。万が一見つかっても、今のローグが遅れをとることはないだろう。
それから一週間、幸いにも勇者の復活はまだ確認されず、数体の機獣も問題なく撃破できた。機獣の正体は未だわかってないが、二人の調査により、魔法攻撃に弱いことがわかり、機獣の掃討が格段に楽になったのは朗報だ。そして、ローグも無事に帰ってきた。今はその加工を急ぎネレスが行っている。全員分の魔珠製作作業もこの調子なら問題なく終わりそうだ。
魔軍にとって、良い流れが来ている。そう手応えを感じるガイ達であった。
~つづく~
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