第1章 第3話

 輝夫は東京での狭い部屋と古くなって時々軋むベッドに比べて、あまりにも広すぎる部屋と、届いたばかりの新しいベッドに横になってなかなか寝付けなかった。ベッドから起き上がり、部屋の明かりを点けてから、窓のカーテンを開けた。曇った夜空は月の明かりも星の明かりもなく、輝夫の部屋から漏れる明かりが、広大な前庭の光景をおぼろげに映していた。輝夫の部屋の明かりで照らされた薄暗い中でも、道路沿いの3本の木々が風で揺らめいているのが分かった。

 輝夫が窓を開けると、風で揺らめいて葉が擦れる音が聞こえてきた。その音にしばらく耳を傾けていると、とても心地よい音に聞こえてきた。葉が擦れる音に交じって、枝が軋む音が聞こえてきた。葉が擦れる音と枝の軋む音が音楽を奏でているかのようであった。枝の軋む音の伴奏で葉が擦れる音で旋律が奏でられているかのようであった。

 木々の葉と枝が奏でる音楽で眠気を感じた輝夫は、再び床につこうと部屋の電気を消した。カーテンを閉めようと窓に目をやると、茶色の光が窓から差し込んできた。輝夫は窓際まで行って外を見た。3本の木の中で中央にある木だけが暗闇の中ではっきりとした輪郭を表していた。その中央にある木の幹に光るものがあった。茶色の眩しい光が暗闇の中で輝いていた。

 階段を降りていくと、1階のホールは小さなランプの光だけで薄暗く静かだった。両親はもうすでに眠っているようであった。輝夫は玄関の扉を開けて、前庭の中に足を踏み入れた。中央の木の幹の茶色の光が、前庭全体を照らしていた。家と庭が薄暗い茶色の世界に包まれていた。

 輝夫は茶色の光を放つ中央の木に、数歩手前まで近づいた。あまりにも眩しい光のため目を細めた。さらに、すぐに手で触れられるところまで近づいた。急に体中が温まり軽くなっていくのを感じた。体が少しずつ浮いているような感じがした。いままで感じたことのないような心地よさを体全体で感じた。自分の意識がその心地よさに溶け込んで少しずつなくなっていくのを感じた。

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