第6話
翌日昼間。
「うちのを甘やかさへんどおくれやす、千代原さん」
スタマ新宿西口店で、宮月は電話相手にいつものでたらめな関西訛りで言い放った。
『申し訳ない。なにせ有名人だったものだから、いよいよ捜査も本腰を入れざるを得なくなってね。これ以上人が出入りする前に調べてもらった方がいいと思って』
すんなり謝った相手──千代原に、宮月は口をへの字にして眼鏡の位置を直す。
「ボクらただでさえ事件現場うろついてるけったいな集団や思われてるさかい。困るで、ちゃんと手続きしいひんで調べたなんて報告に上げれまへん」
『それを誤魔化すのも専門員の仕事だよ』
「千代原さん」
いつもしっとりとして柔らかい宮月の声が、咎めるように険を孕んだ。千代原の喉が、くっと詰まる気配が電話口越しに伝わる。
『……申し訳なかった』
「はい。ちゃんと謝ってくれたんなら、許しまひょ。やけど、もうよしとくれやっしゃ。……千代原さんが焦ってる理由は見当がついてるつもりです。気持ちはわかるけど、分別はしとおくれやす」
話がいち段落付き、宮月はカウンターの後方にあるメニュー表に視線を向けた。その中から期間限定の
『……宮月さん、もしかしてスタマにいるのかい?』
店員の声が聞こえたのだろうか、千代原がきょとんとしたように問う。肯定すると、くふふと喉を鳴らすような笑いが返ってきた。
『君も甘やかしているじゃないか』
「別にィ。期間限定のが今日までやったのに飲み損ねたやら言うとったさかい」
『素直じゃないね』
「はいはい。切りますえ」
少々一方的に通話を切り、宮月はレジカウンターに歩み寄り、持ち帰りで注文した。
サイズは結局一番大きいものにした。
出来上がるのを待っていると、宮月の端末が震えた。部下に頼んでいた調べ物が終わったらしい。タイトルは──『第二の十字事件について』。
──「父が失踪して、手掛かりからここに辿り着きました」
──「いなくなったのは、私が十四歳のとき……五年前です」
あの日、INAPOに自分の喉元にナイフを突き付けてやってきたヒバリを思い出す。
『第二の十字事件』。五年前、発見された四つの死体その全てに首に咬傷があり、そして体から血を抜かれていた、非公開の吸血鬼関連事件。
「しんどいなぁ」と呟いた宮月を、周りの客が気にすることはなかった。
通話の切れた千代原の端末の画面に、数年前に仲の良い同僚と飲み会にいったときに撮った写真が表示された。千代原は本来、こういった写真を常に飾ったりするような感傷的な性格ではない。それでも何年もこの画面がこの写真のままなのは、その写真にしか、彼が写っていなかったからだ。
「……もう直ぐだ、
千代原の隣で笑う青年の姿。
美崎
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メディアワークス文庫『吸血鬼は目を閉じ、十字を切った』は、2021年11月25日発売!
シキョウはなぜINAPOで監視官として働くのか、彼の抱える秘密とは。
そして、ヒバリの父の行方は――。
心揺さぶる、衝撃の展開をどうぞお楽しみに!
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吸血鬼は目を閉じ、十字を切った 酒場御行/メディアワークス文庫 @mwbunko
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