唐突に還されたと思ったら変な世界あっちこっち行かされる羽目になりました

茉白 ひつじ

第1話 唐突に還されまして。

 安良平あらたいら 龍一竜一と言うのが俺の名のはずなのだが、18年間慣れ親しんできた筈なのに、そう呼ばれても今では中々ピンとこなくなってきている。 

 

『ルーチェ・アルタイルさん、ギルドマスターがお呼びですよ』

 

 ……最初に行った世界で『リュウイチ・アラタイラだ』と名乗ったら『ルーチェ・アルタイルか』と返された。それがまた妙にファンタジー世界にしっくりくる響きだったため、以後気に入って使っているのがこの名前なのだが、幾度となく召喚をされ、様々な世界のテスターをさせられているうち、元の名前より異世界用の名前のほうが馴染み深くなってしまった。 

 

 ――そう、俺は何度も何度も異世界に召喚されている。おかしな話だが真実だ。

こんな馬鹿げた事になっちまったのには理由がある。全てはあの日、うっかり首を縦に振ってしまったのが全ての元凶だ。 

 

「おめでとう。龍一くん。いえ、ルーチェと呼んだ方が良いのかな?」 

 

 記念すべき第1回目の召喚で、魔王討伐という世界の悲願を達成する事に成功した俺は大声援を送る民衆と、隣で柔らかに笑う王女様ヒロインの眼の前で光に包まれ、なんだなんだと自身も周りも、その光景を見ている者全てが慌てている内に、この後起きたであろう、様々なご褒美イベントをスキップして神々が住むという領域に召喚されてしまった。 

 

「なっ!? あれ? ここは? 俺は一体……?」 

 

 突然のことに驚く俺に、女神リアクシールと名乗る女性が申し訳なさそうな顔で俺がここに飛ばされた理由を語った。 

 

「突然で驚いたよね。あの子が――王女ミルクシアが使った契約召喚術は『世界破滅の原因になり得る存在に対処するまで』という契約に基づいて君を召喚していたものだったからね。その対象となる魔王が討伐されたから、猶予期間の48時間が過ぎてきっちり召喚契約が切れちゃったんだ」 

 

 契約終了と言う事で、これから皆からチヤホヤされ、王宮で御馳走を食べ、そして夜はミルクシアとしっぽり良い感じになるとこだったっつーのに、問答無用で元の世界に送還されてしまったらしい……のだが、俺が元の世界へと向かうその途中、世界と世界を繋ぐ狭間に手を伸ばしてひょいっと俺を捕まえて神域に招待したというのだから驚きだっつーか、迷惑な話だ。

 

 そうまでして一体何の御用なのだろうか? もしかしたら何かご褒美でもくれるのだろうか? 当時の俺は暢気な事にそう考えた。  

 

 ……それは正解であり、誤りでもあった。 

 

「君には類稀なる適性があるんだ。そう、私達『クリュルァファルヌァ』の担当神達が管理する世界への適性がね、もう半端無いんだよ」 

 

クル……良くわからんが、先程まで居たあの国がある世界がそういう名前なのだろう。しかし適正がある? この女神様は何を言うつもりなのだろうか、あの世界との相性が抜群な 俺が居れば安定するとかそういう感じ? つまりは、魔王を倒したあの世界でミルクシアと幸せにスイートにスイートに末永く暮らして欲しい、そうおっしゃるのだろうか。 

 

 地球に未練が無いといえば嘘になるが、あの世界での俺は英雄様だし、本当ならあの後ミルクシアと素敵な夜を過ごしちゃう予定だった。そのままこの世界で暮らせというのであれば……ミルクシアのおっぱいでけえんだよなぁ……。


 実家の母ちゃんも父ちゃんも弟と妹が居るからまあ……つうか、元の世界で何やってたか忘れちまったわ。だって5年位は生活してたからな? 世界を巡って仲間達と出逢い、ミルクシアとちょっとイチャイチャして魔王やっつけて、イチャイチャして。いやあ、もう俺あっちの世界の人っすわ。うん……しかたないよな、女神様の仰ることだからな。あの世界に骨を埋めてやろうではないか。女神様とやらがそこまで言うのならな、ほんっと仕方が無い。なんたってミルクシアとたっぷり良い事出来ちゃうしな! 

 

 そう、思って覚悟を決めたのだが、女神から返って来やがった言葉は俺が望むものでは無かった。

 

「ああ、違う違う。君はちゃんとこの後地球に還してあげるよ。ただ、良かったらだけど私とちょっとした雇用契約を結んで欲しくてね、帰る途中に申し訳なかったけれど呼んだんだ」 


 ミルクシアと共にあの世界で生きる、そのやわらかくてふよふよでたわわな生活を想像しただけで瞬間的に肉体強化された俺の一部分を一体どうすれば良いのだろう……あ、しぼんできた……。 

 

「雇用契約……?」 

 

「うん。私達が担当しているクリュルァファルヌァにはここだけではなく、無数に世界が存在しているんだ。同じ宇宙内だけでも数え切れないほどあるし、平行宇宙まで含めればもう、気が遠くなるくらい。今回君が魔王討伐を果たして平和をもたらしたのはその中の一つなのさ」 

 

「無数に……では、俺に別の世界に行ってまた魔王を――」 

 

「ううん。私はあくまで世界の傍観者だし、良性種も悪性種も等しく我が子だと思っているんだ。子供達が争うのも世界の営みにしか過ぎないと思っているし、例えそれによってどちらかが滅びるのだとしても……悲しいけど、それも子供達の選択によって決まった世界の行く末だからね。私が介入していいものではないんだ。

 良性種の子達が契約召喚をして、世界の破滅を防ぐーとかやるのは、あくまでもあの子達の力しか使っていないからね。今回の件もそうだけど、私は全くの無関係。ただ上から見ていただけさ。だから、私からは君の力を世界平和のために使って欲しいとか、知識チートで発展させてーとか頼むことはないよ」 

 

 では何の用だろうか? 話の流れからすると、また何処かの世界に行かされるのは間違いないと思うのだが……。 

 

「非常に言いにくいんだけどね……この間――と言っても、君達の感覚でいうと気が遠くなるほど昔の話だけれども、馴染みの神々と飲み会をしたんだよ」 

 

「飲み会」


 おっと、早くも雲行きが怪しくなってきたぞ。どうしよう、めっちゃ帰りたい。無理かなあ、話聞かないで帰るの無理かなあ、ああダメそう……この女神、めっちゃ袖掴んでる。 

 

「うん。でさ、みんな『創る世界のネタが切れてきたよなあ』ってな具合に悩んでてさ。それは私も常々思っていたから同意したんだ」 

 

「世界のネタ」


 なんだよなんだよ。世界ってそんなスナック感覚で作られてるの? WEBノベルじゃねえんだから、ネタに走らなくても無難なの作ってりゃいいじゃん。 

 

「そう。これまで私はね、魔法や魔術を主軸として発展する世界、蒸気文明が発達する世界、石に魂を移してロボットバトルの様な事をするように発展する世界に歌が世界を救う世界などなど……まあ、いろいろ作ってきたんだよ」

 

「なるほど、そこまでやっていればネタが尽きることでしょうね」


 いやあ、ほんとにWEBノベルでみたような世界を創造してるとは思いませんでしたわぁ……なにその、歌が世界を救う世界って。ちょっと気になるじゃねえか。 


「うん。ベタなのから色物まで色々作って観察してきたんだ。でもさ、もっともっと変わった世界を作って観察してみたいって思うじゃない? 管理者の楽しみって、創った世界の観察くらいしかないからね。だから…………酔の勢いで……その、ソシャゲみたいにさ、世界創造ガチャというものを作ってしまって……」 

 

「って、ソシャゲのガチャときたか! 随分昔の話だっつーのに、ちょっと今の流行からズレたくらいの範囲に収まってるじゃねえかよ! ああ、すいません、思わず口に出して突っ込んじゃいました」 

 

「いやいや、別に地球がガチャの元祖ってわけじゃ無いからね? あんな邪悪で金を稼ぎやすいシステムなんて、ある程度文明が進めば誰かしら思いつく物さ」


「邪悪で金を稼ぎやすい……まあ、我々消費者としては、腹立たしいけど夢をかわせて貰ってますからね……続けて」

 

「そう、ガチャには夢と希望と絶望が詰まっているじゃ無いか。それをさ、世界創造でやったらどうだろうか? 普段なら絶対に創ろうとしないような酷い世界や、色物過ぎて辛い世界まで、思う存分にやれるじゃない! だからね、創っちゃったの、世界創造ガチャ」


「創っちゃったかぁ……そうかぁ」

  

「創っちゃったのです! それでね、ガチャの中には神々がそれぞれノリと勢いだけ書いた世界設定が書かれた紙が入っててさ、引いた神がそのお題に沿った世界を創造するんだよ。もちろん、神々で契約を交わした上でやるからね、引いたけど無理ー! なんて認められない。必ず創らなければならないの」 

 

「いやぁ、酒の勢いだけで作られた世界っすか。うっわあ、確実にヤベェ案件がゴロゴロしてるじゃないっすかそれ! 行きたくねえなあ~! いやあ、まともなとこに召喚されてほんとよかった……」 

 

「そう言わずにさ、ちょっとだけ、ちょっとだけその世界たちを回ってみない?」 

 

「えっ」 

 

「上から見るよりも、実際に体験した方が作った世界をより深く知ることが出来るじゃない? けれど生憎我々管理者が降りることは原則として禁止されてるんだ」 

 

「ええと……つまり、雇用契約とは、貴方が作った世界に降りて様子を見てこい、そういう仕事を頼みたいって事ですか?」 

 

「話が速くて助かります。そうです。先に言った通り、特に使命を与えるような事はしませんし、もういいかな? って私が思ったタイミング……長くとも数ヶ月で日本に還っていただけます。ただ純粋にブラり旅をするだけでいいのです」 

 

「数ヶ月……ルンルンラール王国に降り立った時は王国の保護を受けて安全にレベリングが出来ましたが、今度はそんな保護は期待できませんよね? お城に召喚されるのとはわけが違うんだ、どうせお約束通りどっかの森やら草原やらにぽいっと落とされるんでしょう? 帰る前に死んでしまいそうな気もするのですが!」 

 

「その点はご心配なく。先の世界で培った能力は全て継承されます。前作ゲームのステータスを引き継げるようなもんですよ。シリーズを跨いだ強くてニューゲームってやつです」 

 

「それなら……いいかな? 鍛えた力があればどんだけ残念な世界でもなんとかなりそうだし……っと、そうだ。雇用というのであれば対価として何か報酬がいただけるんですよね?」


「ええ、もちろんです。報酬はそれぞれの世界で得た能力、そして持ち物の権利です。つまりは、それらを地球に持ち込めるということです」 

 

 自分で得たものを報酬にされるっていうのはアレだけど、俺のストレージには金貨や宝石がたくさんたくさんはいって居るからな。それらを何処かでうまーく換金できれば遊んで暮らすほどの金は期待できるし、ステータス面――魔術やスキルを地球で使えるかはわからないが、超人的な肉体となったまま帰れるのであれば、様々な面で活躍できそうだ。 

 

 アチラコチラの世界に回されるというのであれば、安定して貴金属を得られるだろうし、さらなる能力の向上も見込めるだろうな。 

 

 よし、これは悪い話ではない、受けようじゃないか。ノリで創られた世界つってもさ、どうせイカが文明持って頑張ってる世界とか、魔法使ったスペースオペラとか、精々そんなところだろ? 酷くてもヒャッハー溢れるポストアポカリプスとかさ、まあ、初期値の俺なら秒で死ぬだろうけれど、カンスト間近まで鍛えたに等しい今の俺のままでいけるってんなら楽勝よ。断る理由はねえな。 


……

… 

 

 なんて軽いノリで考えていた、この時の俺をぶん殴ってやりたい! 思い出せよ! 女神がなんと言っていたか! 

 

『神々がそれぞれノリと勢いだけ書いた世界設定』 

 

 それが一体どんな世界なのか、どんなに辛い思いをすることになるのか……。

 テンプレは一通りやったつってただろ? マジカルスペースオペラとか、ポストアポカリプスとかもうありきたりなんだよ! もっとひでえ地獄が俺を待ってんの! 

 

 それらを一切考慮しなかったあの日の俺は……それはそれは良い表情で了承し、やべえ書類にサインをしてしまって。


 非常に嬉しそうな女神に見送られて懐かしき我が部屋に送還されたのであった。 

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