一口しか食べてないのに!
竜田川高架線
第1話 カップ麺作ってるのに水産?
「……あぁぁぁ……死ぬほどそば食いたい」
狐耳の女は尻尾を床にペシペシさせながら寝転がり、ネットサーフィンをしながらボヤいた。
つい最近、ラーメンを食べたばかりだが、麺類を食べたらまた別の麺類を食べたくなる。人類は麺類と言うパワーワードのような何かが浸透して長い。
「あ、私、人類じゃないか……」
少し悩んだ後に、メッセージアプリを開く。
家主の男に『帰りにそば買ってきて』と送った。
「で、なんで買ってくるのがカップなワケ? 普通、乾麺の方買ってくるでしょうがっ」
「いや……見たら食べたくなって……」
家主の男は正座で反省している素振りを見せているが、ヘラヘラとしながら袋を漁った。
「赤いきつねの方も買ってあるから勘弁して」
「こっちうどんじゃない! 私、そばが食べたいんだけど」
「狐なのに油揚げ食わんの?」
「わらわ、愚かな人間どもが稲荷とか油揚げばかり献上するんで飽きたのじゃ〜! っていう話何回したと思ってんの!? と言うことで緑のたぬきは私がいただくから」
一連のやり取りの最中、丁度ケトルのお湯が湧いた。
蓋を開け、粉などをぶちまけたりしつつ、お湯を注ぐ。
スマホのタイマーを設定し、待つ。
この待つだけの3分がやけに長い。休憩時間の3分とか、映画を見ているときの3分なんて瞬きするくらい一瞬に感じるのに。
今、容器の中で麺達が一生懸命にお湯を吸い、自分達に食われる準備を頑張っているのだろうと、邪とも言える妄想をふくらませる。
「そう言えば、これ、東洋水産って会社が作ってるのよね」
狐耳の女が、容器を回して生産者表示を見る。
あくまでマルちゃんはブランド名であり会社の名前ではないのだと気付く。
「そう、だね」
「カップ麺作ってるのに水産? 水産業って漁業とかでしょ?」
「魚ニソとか出汁とかも作ってるから。水産業の一種なんだそうな」
「ぁぁ、へぇ」
しばらくして3分が経つ。
狐耳の女はさっそく蓋を全部剥がして「いただきま~す」と待ち侘びていた夕飯に箸を突っ込んだ。
正直、自分で茹でたそばとか、適当な立ち食いそば屋なんかより余程美味い気がしてならない。そばだからラーメンよりはヘルシーですよ。なので安心して食べてくださいね。と人畜無害な顔をしていながら、即席カップ麺のジャンキーな正体を隠せていないのだ。
きっと、そういうところがそこはかとなく美味さを感じてしまう要因なのだろう。
そこで狐耳の女は気付いた。
家主の男は未だに食べようとしない。
「はやく食べないと延びちゃうんじゃない?」
「これ5分なんだよ」
麺が太いからか。
3分だと勘違いして食べたらまだ硬かった……という教訓ある。
「あらーそれは残念ね。お先に頂いちゃってごめんなさい?」
ここぞとばかり、見せつけながら麺をすする。飯テロと言うのは非常に快楽を伴うものだ。無限にやっていたい。
5分が経って、家主の男は「やっと食べれる」と蓋を剥がす。
麺をほぐして、啜れば、これがインスタントであると言うにはよほど無理があるもちもち感に襲われる。油揚げを出汁に沈め、噛じると、甘さと出汁のしょっぱさとがいい塩梅で合わさる。
「ああ、学生時代思い出すな……」
金が無く、かと言って自炊するほどの自律心も無い。気付けばカップ麺ばかりという惨状。特に食していたのは、きつねとたぬき、これら2つだ。
「一口貰うわ」
決していい事ばかりではない思い出に浸っていたら、狐耳の女の箸が迫っていたことに気付かなかった。これなら飛んでいるハエでも捕まえられるだろいという勢いで、油揚げを取られる。
「な! 油揚げは飽きたんじゃないのかよ!」
「飽きたからって食べないわけじゃぁないわ」
1口どころか、ガッツリ食われ、まあまあね、という失礼にも程がある感想を言われた。
帰ってきたのは、端っこの2センチほど。
「一口しか食べてないのに……!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます