番外編 フシル

 私は、両親から愛情をいっぱいもらっていたのだと、失って初めて、知りましたでございまする。




 ワシミズ族は魔法に特化した種族であり、人間たちの作る防具の材料、薬の材料、食糧と余すことなく使える万能種族でございます。使える価値、売る価値がある分、色んな物達から狙われるので、どこに行ってもワシミズ族を快く受け入れてくれるところはなかったでございまする。




 私たち家族は、色んな村や森を転々と、家族と平穏に暮らせる場所を探したり、困っている者たちの手助けをしておりました。


 その中でも、苦い顔する者や露骨に迷惑な表情をする者、用が済んだら追い払う者ばかり。


 私は、家族以外信用等出来るはずもありませんでした。


 いえ、あの時は両親ですら煩わしい者だと考える、愚か者でございました。




 どんな場所に行っても、ダメなら自分達だけの家を作ればいいものの


 なぜ、居場所を探そうとするのか。


 嫌な顔をする者たちを助けようとするのか、私にはさっぱりわかりませんでございました。


 他の者よりも、魔法が優秀なワシミズ族は困っている者がいるのなら助けていく。それが、大昔ワシミズ族を救ってくださった人への恩返しであり、理念というなんとも馬鹿らしいものを掲げている二人にほとほと呆れておりましたでございます。


 恩返しも何も、それは大昔のことでございまし、自分たちの事しか考えていない者になぜ手を貸すのか?


 本当に馬鹿らしいとしか思いませぬ。




「お前はまだ世界を知らないから、そう考えるのは仕方ないですよ~」




「そうですね~きっと私とお父さんのように、好きな人ができれば分かっていきますですよ!」




 二人も、元々一人で旅をしておりましたようでございます。旅の途中で出会いお互い支え合って生きる素晴らしさというのを理解していったらしいでございまする。


 私からしたら、それは同じ種族だからでは?と同じ話を何度もされて毎回、思う事でございました。


 それに、両親以外のワシミズ族を見たことがない私からしたら、好きな人など到底できるわけがないでございまする。


 お母様もお父様も、自ら損ばかりを背負っていくでございます。


 私は、絶対に成獣となったら、この両親から離れ自分一人で生きていくでございまする!


 そう決意をしてから、自分の得意とする光魔法を鍛え上げていったです。




 光魔法は人間でも珍しい魔法で使えるものがいたら重宝されるぐらいの魔法


 だから、これさえ鍛えていけば、ワシミズ族である私でも雑には扱う者などいないと安楽しておりました。




 それが、別れの合図になるとも知らずに。




 本当に馬鹿だったのは、私でございました。


 ある村で夜を過ごそうと、人化ができる両親は宿を借りに行きました。私は、まだ人化になれないので、その隙に一人で練習をしようと、両親の目をかいくぐり村の離れに行きました。


 ワシミズ族の恰好で光魔法を放っている時、それを好機と思った輩が、私に向けて縄の網を投げてきたんです。私は、それに気づかず引っ掛かり、満々と鉄格子の籠に入れられ馬車に乗せられました。




 お母様もお父様が傍にいたらこんなことにはならなかった…むしろ、ずっといてくれたから、ここまで危険にさらされなかったのだと、自覚いたしましたでございます。


 そう、後悔しても、馬車は動き出してしまいました。


 私は諦めず必死に抵抗いたしましたが、私が使えるのは、光魔法のみ。どうやってもこの鉄格子を壊すことは出来ませぬ。


 あぁ、私は売られてしまうのでしょうか。それとも、薬の材料にされてしまうのでしょうかと、嘆きました。


 そんなところに、猛スピードでお母様とお父様が馬車目掛けて飛んできて、風魔法をぶっばなしました。


 馬車の荷台が横転するぐらいの勢いで、馬と荷台をつないでいる個所を切り離しました。その際に籠も外に出て鉄格子が少し歪みました。




「息子よ!!大丈夫ですか!!」




「お母様たちが助けに来ましたですよ!!」




 二人は強い。安心して胸をなで下ろしましたです。


 ですが、相手が悪かったでございます。


 私を捉えたやつは、この辺でも名の知れたアトゥーリ会という裏組織の奴らで並みの冒険者よりも腕がたちました。強い、私の両親よりも。




 戦いでボロボロになり、もう羽を動かせない状態となってしまっていました。その中でも私は籠に閉じ込められたまま、何も出来ませぬでした。


 だからか、お母様が最後に力を振り絞り緑魔法で、草を鉄格子の隙間に入り込ませ、ぐにゃりと私が出れる大きさまで、広げてくださいました。




「に…にげな…さい!!」




「こ…こいつらはお父様たちが何とかするです!!早く!!」




 私は、飛び立ちました。


 ごめんなさい…ごめんなさい…!ごめんなさい!!


 私のせいで…!




「…どうか、無事で生きて…」




 両親のその言葉を最後に、翼をはためかせました。








 *      *      *      *      *      *      *      *      




 逃げても、逃げて、もワシミズ族を狙う者は絶えない。


 お母様…お父様…私はこれからどうすればいいのでしょうか…


 他の者など信用など出来ませぬ…ましてや、人間など…許せませぬ…


 だけど、両親に甘えてばかりいた私は、この世のことなど何も知りませぬ…




 弱音ばかり吐き続け、涙をこぼしていたら、またもやアトゥーリ会の者に捕獲されました。


 今度は逃げられぬよう、鎖を付けられ痛めつけられ気絶しました。


 そして、気絶している間に不気味な森付近まで辿り着いておりましたです。アトゥーリ共がここはシェーンペルマの森と話しているのが聞こえてきました。


 そんなに遠く…両親が命を懸けて逃がしてくださったのに…私は…


 悔しくて、涙が零れる。その時、不思議な声が響きました。




 ”タスケテ…ヒカリデタスケテ…”




「ヒカリ…?光魔法でございますか…?」




 ”ヒカリ…タスケテ…”




 ガチャ




 籠が開くと同時に声は止みました。


 よくわかりませぬが、チャンスでございまする!私は、両親に言葉通り!絶対に生き抜いてみせるでございまする!


 方向感覚など構わずに、アトゥーリ共から一目散に逃げました。


 訳も分からずに逃げたせいで、シェーンペルマの森に入ってしまい、途中ジャブゴブリンと遭遇してしまいましたです。


 ですが、とっても強い人間に出会い、私は助かりました。


 人間に従うなどまっぴらですが、こやつは使えるでございまする!


 強いだけじゃなく、伝説となっているドラゴンを使役しておりますし、こやつは私のモフモフに夢中!利用しまくりでございまする!!


 この人間がいれば、私は両親が望んだ、無事に生きていくが達成できまする!!このダイアウルフは少々ムカつきまするが、こやつも強い!使ってやるでございまする!!


 そう!利用して、利用しまくって見限ればいい!!




 なのに…なぜなのですか…?なぜこの人間は私のために怒ってくださるのですか…?


 どうして、自分が怪我するのを顧みずに庇うのですか…?


 わからない…わからないでございまする…


 今までの者共は、みんな渋い顔をすれど、こんなに穏やかな表情を向けてくれる者など、お母様やお父様以外…いなかった…




 ≪守りたい人、好きな人ができれば貴方もわかりますよ!≫




 ≪お母様ように素敵な方を、お前もみつけていけるですよ~≫




 守りたい人…好きな人…わからない…わからないですよ…他の者は裏切る…他の者は邪な気持ちしか向けない…そんな者ばかりではないですか…


 …この人間は……主様は……信じても良いのでございまするか…?




 _________


 ___________________


 ______________________________________








 主様…!!!


 黒いドロドロに飲み込まれている、主様を助けようと、私は魔法を打ち込み続けていきます。


 死なないでくださいまし…お願いでございます…


 …私は、間違っておりました…


 あんなに優しくて、陽だまりのような方を利用しようなどと…!!


 お願いでございまる…どうか、私に謝らせてくださいまし!!




 …私の方がよっぽど浅ましい者でした…きっと許してなどもらえぬかもしれませぬ…


 ですが、もう一度元気な主様と対面して謝罪をさせてくださいまし…


 …もし…もし…許してもらえたら…傍で守らせてくださいますでしょうか…主様…




 …お母様やお父様が言っていたことは、これだったんでございまするね…


 悔恨の念に打ちしがれようとも、今は主様を救出するのみ。




 好きというのは、まだわかりませぬが、守りたい人…どうか、無事でいてくださいまし…!




































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る