新世界アドベンチャラー! 〜強さと好奇心が新世界を切り拓く〜

@wh1sper

第1話 運命の出会い


「はぁ、はぁ、はぁ、、撒いたか、、?」


–––––白い息が舞い、空気にゆっくりと溶けていく。


ここは深い霧と謎に包まれた古代都市。


まるで吐く息すらも霧の一部へと変わっていくかのような深い霧。


この霧は訪れた探検家に幻を見せると言われており、一度迷い込んだらこの古代都市で死ぬまで外に出られることはないと言う。


そして、

その死すらもまた、幻。


しかし、その感覚は現実のものと錯覚するほどの恐怖を味わわせる。


そのためこの古代都市の生還率は100%と、かなり安全であるが、その中から再び挑戦した者はほとんどいない。


–––––つまり攻略者はゼロ。

最も多くの人間がクリアに挑戦して、最も多くの人間がクリアを諦めた遺跡である。


そして、その古代都市に挑戦する人間がまた一人。


男は、茶色のロングコートに身を包み、フードを深く被っている。

右手には短剣を持ち、懐に入れていた水筒を取り出して、水分を補給する。


「‥‥ゴクッ、ゴクッ、、ハァ、、

 やべぇな。ファントムシティ。

 聞いてた話と少しも一致しねぇぞ。」


そう。

この古代都市の名は〈ファントムシティ〉。


この世界に突如として現れた【大遺跡】の一つ。


その中で現在、人類が確認している大遺跡の数は10。


その内の一つであるファントムシティは、探検家ごとに様々な姿を見せる幻影都市。



ある探検家曰く、そこは高層ビルが立ち並ぶ現代都市。

ある探検家曰く、そこは西部劇さながらの寂れた街。

ある探検家曰く、そこには何も無かった。



しかし、彼の目に映っている光景はそのどれとも一致しなかった。


辺りには、赤茶色の岩のような四角柱の塔があちらこちらに立ち並び、まるで塔の森を形成しているようだ。


「‥‥登るのは、無理だよなぁ。」


背中を預けている岩の塔に手を触れる。


岩のような見た目とは裏腹に、表面は凹凸が全く無く、引っ掛かりが見つけられなかった。


どこまで続くかは分からないが、塔の頂上まで行ってみれば何か分かるかもしれないと思ったが、その作戦は断念せざるを得ないようだ。


そして、オマケに問題がもう一つ。


男は塔の陰から、霧に包まれた辺り一面を覗き込む。


目を凝らすとそこには、黒い陰、、


「ギギギギギ、、ギガガガギギッ、、」


人の形をした生き物がこの都市内を、のそりのそりと歩き回っている。


二足歩行の生き物で、全身が闇のように黒い。


そして更に不気味なのは、首から上が存在しないのだ。


そのため、どこから声?を出しているかも、目?が何処にあるのかも分からない。


–––––だだひとつ、男が学んだこと。


それは“奴”を直視してはいけない。と言うことだった。


先程遭遇した際、うっかり一匹倒してしまったために、救難信号のようなものが発され、奴らが大群で押し寄せてきたのだ。


「進むしか、ねぇかぁ、、」


どこを見渡しても同じ景色。


出口は検討もつかなかった。


それならもう、前へ進むしか選択肢はなかった。


決意を固めると、音を立てないようにゆっくりと腰を上げて、視線は絶対に上げないように歩き出した。


心なしか更に深くフードを被る。



–––歩き始めてすぐ、突然と黒い陰が真横を通り過ぎていった。


ただでさえ霧で視界がハッキリしないのに、そのうえ目線を落として歩いているのだ。

急な登場に思わず身構えた。


ギギッ、、ギガガギギガゴォ、、ギィィ、、


ゆっくりと、陰が後ろへ遠ざかっていくのが分かった。


(‥‥いったか、、?)


完全に奴が遠ざかり、気を抜きかけたその時、


ギィィイエェアアアアアアーーー!!!


一帯に、甲高い叫び声のようなものが響き渡った。


(これは、救難信号!!)


目線を下げることなど忘れ、反射的に声がした方向を探す。


(俺の他に、誰か探検家がいるのか!?)


音が反響していて、どこから聞こえてくるのかよく分からなかったが、その答えはすぐにやってきた。


チタッ チタッ チタッ チタッ‥‥


周囲にいた、首のない黒い陰があちこちから一方向へ走っていく。


まるでそこには誰もいないかのように、男のことを無視して通り過ぎていく。


–––––何もかもが謎であるファントムシティで一つの手掛かりが見つかった。


もしかしたら、この光景を目にしているのは俺だけではないのかもしれない。


訪れた者一人一人に違う姿を見せると言われるこの遺跡にて、共通認識が得られたのかもしれない。


これが、この遺跡の本当の姿‥‥?



気づけば、走り出していた。


首のない奴らとともに、一点を目指す。


この先に何がある?


何が待ち受けている?


好奇心が抑え切れなかった。



そして、しばらく走り続けると、





–––––突如、


霧が晴れた、、


「‥ハァ ハァ ハァ、、、

  なんだこれ?」


行き着く先は、開けた空間だった。


さっきまで見飽きるほど並んでいた岩の塔が一つもなく、驚くべき光景が飛び込んできた。


そこにあったのは、巨大で真っ黒な立方体だった。


あまりの大きさと、闇のような黒さで距離感が掴めず、目がおかしくなりそうだった。


立方体の下部に目をやると、あの首から上の無い生き物がそこから出入りしているのが分かった。


また上空は、霧が晴れたことで空が覗くかと思いきや、厚い雲に覆われていて、現在地はまだ分かりそうにもない。


時間感覚がどうなっているのか不明だが、体感として1日近くはここにいる。


そんな中でやっと見つけた手掛かり。


しかし、何も考えずに飛び込むのは危険だ。


そんなのは承知している。


でも、、


「‥ここで行かなきゃ、探検家じゃねぇっしょ。」


遂に、人類初のファントムシティ攻略へ歩き出そうとしたその時だった。



–––キャァー 誰か、助け‥‥‥


(人の声!?)


振り向くと、黒い影から必死に逃げている白い格好の人物がいた。


敵の数は数十体程。


逃げている人物は霧が晴れて、開けた空間に出たのにも気づかず、一心に駆け抜け、再び霧の中へと消えた。


「‥‥はぁあー、また、来るかぁ、、」


男は自らの罪悪感に打ち勝てなかった。


目の前には人類最大の謎。


しかしこの霧の中、たった一人で彷徨い続ける恐怖や寂しさは自分がよく分かっていた。


世界の秘密はきっとまた。


今度もまた、居場所は奴らが教えてくれるだろう。



–––––とにかく今は、あの人だ。


「オーラ〈青〉」


男が何かを唱えると、彼の両脚が青い波動に覆われた。


そして体勢を低くし、両脚に力を込める。


ダンッ!


青い軌道を描いて、彼が高速で移動を始めた。


霧の中へ飛び込み、塔の森を駆け抜けていく。


チラッと見た感じ、走り方からして女性だろう。

しかも、とても遺跡に来た探検家とは思えないような軽装だった。



黒い影を何体も追い抜いていくと、すぐに白い姿の人間を捉えることに成功した。


「みっけ、」


更にスピードを上げる。


彼女の横側から突っ込むかたちだ。


フードを深く被っているため、彼女の表情は窺えなかったが、懸命に吐く息から、必死さが伝わった。


「‥よっと、」


「ひゃっ!–––えっ!?、、」


彼女を抱え上げ、そのままのスピードで遠くの塔の陰まで疾駆した。


「‥うっし。撒いたろ。」


高速移動により逃げ切ることに成功すると、ゆっくりと腕の中の彼女を下ろしてあげた。


「大丈夫?」


「は、はい。

 あの、助けてくださって本当にありがとうございます。

 探検家さん、でしょうか?」



–––––目が、合った。


フードで顔が分からなかったが、あまりのスピードで駆け抜けたため、フードが捲れ、しっかりと顔が見えた。


雪のように白く、透明感のある肌。

大きくてハッキリとした目に、長いまつ毛。

鼻筋も通っており、まるで幻かと思うほどの美人だった。


そして何より、白い肌とは対照的な綺麗な黒髪に惹き寄せられた。


「そんなところ。

 君は?」


「えっと、、私もそんなところです。

 ‥‥ところで、その、」


「なに?」


「この遺跡、クリア出来ますか?」



これが彼女との初めての出会いだった。




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