232坂 いい歯で人生を

 わしの趣味は食事。


 自分でも作るが、それにこだわらず食うことがとても好きだ。


 社会に出てから傘寿さんじゅを迎えたいまもそれは変わらない。


 嬉しいとき楽しいときはもちろん。


 辛いときも悲しいときも、美味いもんさえ食えれば明日の活力になるからな。


 そしてそれを支えるのに欠かせないのが歯。


 まだまだ若い者には負けんよ。




 ガララ──────────。




 ブタがスケボーにのって坂道をおりてきた。


 高そうなスーツを着て一見すると社長などの役職にある雰囲気だが、額から頬へ縦に大きな切り傷がある。


 古い傷で、サングラスをかけてるから分からないが、あれは左目もやられてるな。


 相当な修羅場を潜り抜けてるきたようだが、食に関してはこだわりがあるようだ。


 その先にはブタだけの会員制レストランがあるからな。


 ブタがこの辺りに来るとすればそれしか用がないはずだ。


「……」


 ふふ、おまえも儂と同じか。


 若いときに歯を食いしばって生きてきたからこそ、いまの平穏な毎日があるんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る