円卓の騎士達よ、永遠なれ

霧野

第1話 滾り

 いよいよ、戦いの火蓋が切って落とされた。

 観衆は熱く沸き立ち口々に声援を送り、白い息を吐きながら見守っている。



「召還!! 全ての始まりなるものよ、完全なる存在よ! 今こそ白き繭を出で、黄金に輝くその身を横たえ我が力となり給え!」


 気迫を滾らせ詠唱を終えた恒夫つねおが、儀式めいた恭しい仕草で魔力の源を注入する。一連の段取りを済ませ、恒夫は祈るように目を閉じた。



 そんな恒夫を横目で見遣り、逹紀たつきは不敵な笑みを浮かべた。


「フッ……笑止。そんな力など取るに足らぬ。その宝玉、一見強そうには思えるが、使い方を誤ればその力はお前を損なうだけ」



 逹紀の言葉に思わず目を見ひらき、恒夫は憤然と声を張り上げた。


「キサマ如きに何がわかる! 我に宿りし至高の力は、今まさに自らの力と融合しつつある。笑っていられるのも今のうちだ!」


「ほう……そこまで言うか。ならば、格の違いを見せてやろう」



 逹紀は恒夫の目を見据えたまま、静かに詠唱する。


「……召還。母なる大地の申し子よ。その豊穣、芳しきその息吹。妙なる御業みわざを、あまねく知らしめ給え」


「そ、それは…!」


 優雅に伸ばされた手に握られたものに瞠目し、恒夫は息を呑んだ。



「フフッ……漸く気付いたか。これこそ我が宝剣。こいつが真の姿を現す時、キサマは地に膝をつきこうべを垂れることになる」


 音も立てず魔力の源を注入し終えた逹紀は、淡く笑った。


「ひれ伏せ。哀れな子羊よ」


「くっ…!」


 逹紀は宝剣を掲げた。反対の手には、いつの間にか無数の突起が生えた恐ろし気な盾が握られ、午後の光を捉えて怪しく煌めいた。



 熱く滾っていた観衆は今や声も立てず、息をのむようにしてふたりを見守っている。




 

 静寂を、荘厳な鐘の音が切り裂いた。





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