炎上タワーディフェンス

工事帽

炎上タワーディフェンス

 VR空間にログインして、最近お気に入りのタワーディフェンス・ゲームを起動する。

 タワーディフェンス・ゲームというのは、マップ中の任意の位置にキャラクターや武器、妨害装備を配置して、敵の侵攻を防ぐゲームだ。

 どのキャラクターをどこに配置するか、というパズル的な要素と、キャラクター自体を強くしていくRPG的な要素を持っている。


 同じようにキャラクターを配置して戦うウォー・シミュレーションゲームとの違いは、配置したキャラクターが移動出来るかどうかだ。

 ウォー・シミュレーションゲームの場合には、初期配置よりも、どう移動してどの敵に攻撃するかが重要になる。

 タワーディフェンス・ゲームの場合には、配置した場所から動かずに、押し寄せてくる敵を迎撃するだけだ。どこに配置するのかが決め手になる。


 今日はお気に入りのタワーディフェンス・ゲーム『クロス・ロード』のバージョンアップが行われる。

 『クロス・ロード』のストーリーモードでは、出会いと別れを繰り返し進んでいくのが特徴だ。ある時は敵になり、ある時は仲間になる大勢のキャラクターたちと共に戦っていく。しかし、ユーザーたちの評価としては、「ストーリーモードはチュートリアル」でしかない。


 定期的に追加されるマップで行われる、チャレンジモード。高難易度コンテンツである、それが『クロス・ロード』の本当の戦いだ。

 そして、ストーリーモードでは、マップ毎に使えるキャラが決まっている。

 好きなキャラを使うにはチャレンジモードしかない。それこそ、生き別れ、敵対組織に所属して殺し合う運命の双子に、肩を並べて戦わせることが出来るのはチャレンジモードだけだ。


 そして今日は、新マップの他にAIのアップデートも行われることになっていた。

 それにより、AIの自由度が格段にアップ。近くに配置したキャラ同士の相性や、戦う敵との因縁の有無なんかでもステータスが変動するらしい。

 今まで以上にハードな戦略性が要求されるということだ。


 ゲームの起動と共に、目の前にメニューと、基本ステージである一枚の板が浮かび上がる。

 メニューからチャレンジモードを選択。マップを選ぶ途中で、目の前のマップも変化する。

 選ぶのはもちろん、今日実装された新マップだ。


 新マップを選択し、キャラクターが置ける位置や、敵が通るルートを確認する。

 舞台は山の中なのか、起伏のあるマップに岩や木が障害物として設置されている。そして、木の半分は燃えている。山火事が舞台なのか、それとも追ってが火を放ったような場面なのか。チャレンジモードには説明がないから分からない。

 岩や木がない、残りの部分がキャラクターを配置出来る場所であり、敵が侵攻してくるルートでもある。


 まず一度目は、敗北前提の様子見だ。お気に入りのキャラクターばかりで構成されたチームを呼び出して出撃する。

 チームメンバーは、生き別れた双子の他に、滅びた国の王女や、その国を滅ぼした帝国の王子ながらも身分を隠して旅をしている青年、密命を帯びた宗教組織の暗部に、異教徒であることを隠している少女と、多彩な顔触れだ。

 それ以外にも、特に重い運命を背負っているわけでもないキャラクターもいる。少女に恋するチンピラや、新しい料理を探して旅をする美食家、船の修理代を稼ぐために傭兵になった漁師なんかがそうだ。


 戦闘スタート。

 手始めにコストの軽いチンピラを配置する。マップ上に小さな、それでいて精巧な人形のような3Dキャラクターが出現し、構えを取る。


「殴られたいヤツから前に出ろ」


 次いでバックアップに遠距離攻撃の王女、そして回復役の異教徒の少女。


「風穴を上げて差し上げましょう」

「み、みなさん。がんばってください」


 その後は臨機応変だ。

 敵の侵攻ルートを見ながら、帝国の王子を壁役に。チンピラがいるのとは別のルートを塞ぐ。


「やれやれ、私の出番のようだ」


 コストが軽い代わりに、チンピラは倒されやすい。いつ他のキャラに交代するか。

 そう思ってマップを注視していると、突然キャラが撃破された音声が響く。


「うわぁぁぁ」


 気にしていたチンピラは無事だ。じゃあ誰が、と見れば壁役の王子が居ない。

 慌てて双子を配置する。


「次の敵は、お前か」

「過去など、とうに捨てました」


 二人を配置しても、壁役が目を離した隙に落とされるくらいだ。まだ足りないと、回復薬の美食家も配置する。


「ほっほっほ」

「「うわぁぁぁ」」


 美食家の配置音声の直後に、また倒された。今度は配置したばかりの双子だ。しかも同時。

 なにがあった。

 焦っていても、立て続けに配置したせいでコストがない。

 結局、そのまま、なにも出来ずに敗北した。


「なんなんだ」


 敗北前提とはいえ、様子見にもなっていない。

 仕方なく、もう一度開始する。


 始めの順番は同じだ、チンピラに王女、異教徒の少女。


「邪魔するヤツはぶっとばしてやらあ」

「無粋な方々ね」

「ひーん。帰ってもいいですかぁ」


 そして王子を配置して、今度はコストが溜まり次第、美食家も置く。


「我が盾にかけて、守り抜こう」

「旨い。旨いぞー」


 これでどうだろうと、王子の見ていると、接敵する前からガンガンHPが減っている。

 敵の遠距離攻撃かと思うが、画面内の敵は歩いてくるばかりで攻撃モーションを取っている敵がいない。

 マップのギミックだろうかと、見回しても何も見つからない。攻撃モーションを取っているのは遠距離攻撃の王女くらいのものだ。


 美食家の回復で多少は伸びたが、それでも王子のHPの減りが早い。倒れる前に撤退させる。

 場所が悪いのかと、次の双子はもっと敵の入口に近い場所に置く。


「俺は仕事をするだけだ」


 一人目。すぐに接敵するが受けるダメージは思ったほどでもない。これなら三人は倒せるだろう。それでも三人で終わっては、このマップをクリア出来ない。

 コストが溜まったところで、すぐに二人目を置く。二人で同時に攻撃をすれば、何倍も持つはずだ。


「戦いの意味? 知りませんよそんなもの」


 だが、二人目を置いた直後から、双子のHPがガンガンと減り始める。

 すぐに一人目が、そしてほどなく二人目も倒されてしまう。


「まさか」


 思いついた疑念に、そんなわけはないだろうと思いつつも、他のキャラを撤退してコストを回復させる。

 残ったのは、回復役の異教徒の少女一人。

 敵はどんどん進軍してきていて、負けることは確実だ。それは仕方ないにしても、確認をしなければいけない。


 少女のすぐそばに、教団の暗部を配置する。


「きゃぁぁぁ」


 少女が倒される。

 そう、教団の暗部は、味方である少女を攻撃したのだった。


 確かに、ストーリーモードでは、教団の暗部と異教徒の少女は敵対していた。帝国の王子と亡国の王女も、別の組織に所属している双子もだ。

 だが、好きなキャラで編成出来るのがチャレンジモードだ。お互いを攻撃するなんてありえないだろう。


 ゲームを中断し、文句を言うつもりで『クロス・ロード』の公式掲示板を開く。

 そこは既に、炎上していた。

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