粘り強い甘さ(隠者の逆位置)

「おお孫よ、良い所に来たの。高級な茶葉が手に入ったんじゃが、共に飲もうぞ」

「非常に怪しいけど……折角だし頂こうかな」


 いつもろくな目に遭わないので、彼からの誘いは罠だと思うようにしている。とはいえ、人の厚意を無下にするようなことはしたくない為、お茶の誘いには極力答える様にしている。


「ひっひっひ……嬉しいのお。孫とお茶を嗜めるとは、わしは幸せものじゃ」

「言ってることと表情がマッチしてなさ過ぎて怖いんだけど……でも私も一緒に過ごせるのは嬉しいかな」


 そう言って、彼が淹れてくれたお茶に口をつけた私は、盛大にむせた。さすがに吐き出しはしなかったが、あまりの苦さに驚いてしまい、器官に入り込んでしまった。


「おやおや、お子様にはまだ早かったようじゃな……」

「なに、これ! 滅茶苦茶苦いんだけど!」

「ひっひっひ……これは漢方じゃ、身体に非常に良いとされておるからの。お茶に混ぜて飲めば忽ち元気になるぞ」

「そうかもしれないけど苦すぎる!」

「やれやれ……仕方ないのう。ならばこれをやろう」


 苦さに悶える私を見かねて、わざとらしく首を横に振りながら、彼は私の前に四角く黒い何かを置いた。


「わしのとっておきじゃ、うまいぞー」

「これって……羊羹?」

「そうじゃ、わしは栗羊羹に目が無くての。定期的に取り寄せているんじゃ」


 逆じいちゃんが出してくれたのは、栗羊羹だった。中に大きな栗が入っており、とても美味しそうだ。透明のビニールを剝がした後、口に入れると甘さが口いっぱいに広がった。


「美味しい!」

「ひっひっひ……孫は甘いものに弱いのう。将来が心配じゃわい」

「だって本当に苦かったんだもん! でもこれ本当においしい……」

「癖になるじゃろう、羊羹はこのくどい甘さがたまらぬ。一度食べれば忘れられない味じゃ、脳裏に焼き付く程にな」

「そんなに好きなんだね、でも確かに忘れられない味ではあるね。時々無性に食べたくなるし……ボリュームもあるから存在感もしっかりあるものね」


 今後羊羹を食べる度、この甘さと苦さ、そして意地悪な逆じいちゃんの事を思い出すんだろうなと悟ったのだった。

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