護衛魔(悪魔の逆位置)

「主様、もといマイマスター。私と出かけますよねありがとうございます」

「あ、はい……急にどうしたの? というか、そのマイマスターってもしかして私のあだ名的なやつ?」

「兄さんから聞いたのですが、兄さんとデートをされたそうじゃないですか。非常に有意義な時間を過ごされたことでしょうねそれを聞いて兄さんがおっしゃったんです友達たるもの一緒に出掛けたりするものであるとなのでこうして」

「落ち着きなさい、嫉妬に駆られてすごいことになってるから! つまりは、友達として遊びに行きたいってことでしょう? いいけどどこに行くの?」


 どこからかぎつけたのかは、聞かなくても分かっている。彼の兄、デビちゃんに関する事なら、知らないことなど何一つないのだから。

 前回、デビちゃんと二人で出かけたことをずいぶんと根に持っているらしい、ディアブロこと『悪魔』の逆位置は、早口でまくし立ててきた。

 恐らくデビちゃんに出かけた話を聞いたとき、友達になったのなら一緒に出掛けたりするものだというようなことを聞いたのだろう。彼の言葉をさえぎってしまったが、彼なりに考えた私のあだ名がマイマスターというのも……中々おかしいが、そこには触れないでおこう。


「どこに……ですか、そこまでは考えていませんでした」

「だと思った。じゃあ私の行きたいところでもいい? ちょうど行きたいなって思っていたところがあったから」

「渋々ながら承知致します、マイマスター。どうぞこの私を案内してくださいませ」

「相変わらず……いやなんでもない行こうか」


 誘ってきたのは本人だというのに、肝心の行き先を全く考えていなかったという彼に呆れながらも、私は前から行こうと思っていたカフェに彼を連れていくことにした。そのカフェはラテアートが有名らしく、注文すると好きなキャラクターを描いてくれるのだという。地図で場所を確認しようとしたとき、彼が私の前に立ちこういった。


「地図を貸してください、私が場所を確認しそちらまでお連れ致しますので」

「え……?」

「……こちらですね、今把握致しましたので参りましょう」


 そう言うと、彼は私の手を握りすたすたと歩き出した。時折私の方を振り返り、歩幅を合わせたり周りを警戒するようなしぐさを見せ、意外と紳士的な一面もあるんだなと感心した。


「着きましたよ、こちらですね」

「あ、うん。ありがとう」

「とんでもございません、友達として当然の行動をしたまでですから」


 ニコリという効果音が聞こえそうな程にいい笑顔を浮かべた彼は、その後も何かとエスコートをしてくれ、メニューの注文も彼が行ってくれた。ただ一つその時に問題があった。


「描かせて頂くキャラクターをお伺いします」

「じゃあ私は猫にします」

「畏まりました、お連れ様はいかがなさいますか?」

「決まっているではありませんか、兄」

「あ、この人には蝙蝠を書いてください」

「は……はい、畏まりました」


 流石は狂弟だなと思いつつ、お店の人に迷惑はかけるまいと制御した。文句ありげな様子の彼に、大好きな兄さんを飲めるのかと聞いたところ、はっとした顔になり、何故か尊敬の眼差しを向けられたが、まるっきり無視した。その後も何かと気にかけてくれる彼に感心しつつ、その日は楽しい一日を過ごした。

 後日、デビちゃんにその話をすると、なぜか彼は肩の荷が下りたといい、ひどくぐったりとした。


「一応叩き込んでおいて正解だったな……久しぶりに肝が冷えたぜ」

「え、何があったの?」

「あいつ、やたらとお前を気遣ってただろ? あれは俺様が教え込んだんだよ。そうでもしねえと大変なことになっただろうからな……」


 デビちゃんが言うには、ディアブロは私と友達になった後、悪魔の世界で友達とはどういうものなのかを彼なりに研究していたらしい。

 とても関心ものではあるのだが、その内容は悪魔同士だから成り立つものであり、人間相手にすると即成仏するようなものばかりであったという。嬉しそうに友達について語る弟に、このままでは私が大変なことになると思ったデビちゃんが、咄嗟にデート時のイロハを叩き込んだというわけだ。


「人間は弱い生き物で、少しの衝撃で怪我をするから、絶対にお前がエスコートしろ。歩くスピードもいつも通りにすれば腕が引きちぎれるから相手に合わせろ……とか色々大変だったんだぜ?」

「ははは……私デビちゃんに命救われた感じ?」

「そういうことだな、俺様が如何に良心的でパーフェクトなやつかわかっただろ?」


 そのパーフェクトデビルの弟だろうがと、心の中で突っ込みを入れながら、素で接するには魂がいくつあっても足りないなと痛感するのであった。

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