見えはしない
むーこ
第1話 空飛ぶ生首
20代の半ば頃から、深夜に居間を見ると空飛ぶ生首の存在を感じるようになった。
別に見えるわけでないし実際に飛んでいるのかもわからないが、ただ何となく、真っ黒なくせ毛に覆われた男とも女ともつかない人物の首が居間を飛び回っているイメージだけはできるのだ。
そんな話を隣家に住む幼馴染のもとへ遊びに行った折に話してみたら、幼馴染は「おめー疲れてんだべ」と謎にズーズー弁で言いながらストロング系チューハイを出してきた。
「疲れてる人間にストロング出すかね」
「らしいものがこれしか無ェーのよ。父ちゃんのだけど、まあ飲んで」
父ちゃんのお酒を勝手に取ってくるんじゃないと諭しつつも私はチューハイを開けてしまった。目の前にアルコールを出されるとついつい飲んでしまうのが私という女の性だ。このせいで会社の飲み会において泥酔し放送禁止用語を叫び回ったこともあるというのに。
チューハイを一口飲むと爽やかなレモン味と共に、ガツンとしたアルコール特有の重みが舌を刺激した。徐々に視界が眩んでくる。
酔いというのは恐ろしいもので、回りゆく視界の中で自分が何をしても許される存在になった気分になる。そうして気が大きくなった私は幼馴染が引き止めるのを振り払い、冷蔵庫の食材を勝手に使ってアップルパイを作り上げてしまった。
後日になって幼馴染のお母さんが「お返しに」とトゥンカロンを作ってきてくれた。
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