第32話 逃れられない運命


「そういえば、ここから電車で三つ行ったところの駅に、ストリートピアノが設置されることになって、今夜はイベントもあるらしいわよ」

Y子さんが明るい声でそう言うと、本当に、ほんの一瞬であるが、部屋が温かく感じた。


「あ・・・あ・・・・」

占い師はキョロキョロと見回して


「ああ・・・・みんな行ってくれたみたいです! ありがとうございます!! どうしてですか? あなたも占いとかそういった研究を? 」


「いやいや、そうじゃなくて、ちょっと調べてみたのよ。幽霊ってピアノとか好きなんでしょ? 電車も好きとか・・・まあジメジメした所とか・・・」


「はい・・・その・・・部屋が汚いところとか・・・わかっているんですけれど・・・・・」


占い師の元々の性格なのか、仕事が忙しくなって、またその上ボランティア的に霊の頼みを聞いているためか、とにかく「呼び込んでしまう部屋」には違いなかった。


 するとまたニュースで


「全国的に窃盗を続けていた男性が逮捕されました。整形で顔を変えており・・・」


「あの人のことかしら? 」

「そうらしいです、さっき警察の人が来て、話していましたから。あの・・・」

「ああ、外で会ったの。あなたの所に来ている理由も何となくわかって」

「お知り合いですか? 」

「実はね・・・・」


警察に行ったいきさつをY子さんは占い師に話した。すると占い師は本当に改まった感じで


「すいません、私あなたにちゃんとお話ししなければいけません」


今までで一番大きな声だった。



「私、この仕事を始めたときにお世話になった方全員から言われたんです。軽々しく情報を載せてはいけない、そうすれば一躍時の人には成れるが、悪い人間が周りに集まり、一気に凋落する。そして二度どこの仕事は出来なくなるだろう、って。だからずっと地道に続けていたんです。でもなかなか上手くいかなくて・・・まだコンビニのバイトも掛け持ちしています。で・・・ちょっと色々な人に相談したら、またみんな言うんです


「もうすぐしたら若い女性が占って欲しいとやってくる。数少ない信頼できる人間であるはずだ。その人間に誠意を持って占うこと、そうすれば着実に歩める、と・・・・」


Y子さんはもちろん驚いた。自分はごく普通のOLでしかない、友人もそう多い方ではないから人脈があるわけでもない。だが、彼女の先輩、周りの人の意見は占いのように「半分は正しい」と素直に思えた。

 彼女の容姿ならば、一度メディアに乗れば、確かに人気者になれるだろう。しかし、本当の彼女自身は占いや見えない物が見えることに集中していて、他のことには無頓着といった感じがする。能力が高い故の不安定さなのかもしれない。


「私・・・前は別の家に住んでいたんです。でもどうも私が住むとそこに・・・その・・・集まってきてしまうらしいんです。ですから」


「夜は人のいない商店街に住むことにしたのね」


「はい・・・でも・・・ここは暗くて静かなので一層・・・」

やることが裏目裏目に出てしまっているのだ。


「あ・・・あのね・・・私なりに考えてみたんだけど」

Y子さんは自分がやったことを話すことにした。


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