人に頼るな! 頼るなら、言うことを守ってね♡

@watakasann

第1話 不愉快な看板


 横幅の広すぎる程の町の商店街を、Y子さんは仕事帰りに歩いていた。

実家、マンションはこの先にあるので、彼女は飲み屋の客引きの声がささやく様に聞こえる中、とぼとぼと、のんびりと、正直にいうと一人寂しく、でもほっとした感もあった。


「良かった、コロナの後、飲み屋さんも再開できて」


と彼女は心の中で言った。以前はここを通ると声をかけられて面倒なので、車道横の歩道を通っていた。商店街を歩くのは風雨の日だけだったから、


「あら、ここもお店が無くなっている・・・」とその度に心が痛んだ。

 

しかし彼女はまだ、というのか三十歳目前であるから、店がそれぞれの職種を誇らしげにしてたち並び、休みの日の降ってわいたような人出を見たのは、本当に幼い頃の記憶だった。

親から「バブル期にはDCブランドの店が線でつなげるくらいにあったわ」と聞いたが、その面影は全く残ってはいない。子供の頃にドラえもんを見た映画館は、商店街の中であるのにもかかわらず駐車場となり、皮肉なことなのだが、広いシャッターアーケードに、昼間は煌々と光が差すようになっていた。


 生まれ育った場所、ノスタルジーが壊れて行くのを、やはり彼女も見たくは無かった故もあった。が、そんな中でも、仕事での声出しをやっている人間に、以前には全くなかった尊敬の念を持つことが出来た。


「一人で飲んでみようかしら、そんなに飲めないけれど」

だが店に思った以上にお客が入って行っているので、そのまま通り過ぎ


「あ! そういえばあの占いの店はどうなったのかしら」と

家路から少しそれ、通りの幅がぐっと狭くなった商店街の続きを一人歩いた。


 入り口の真横に大きなライオンの顔がある店が出来ていくのを見て、子供の頃はおもちゃ屋さんだろうとわくわくしていた。でも開店しても昼間に閉まっているので

「ああ、大人の人のお店だ」とわかったのは確か小学校三年生の頃だった。その時に自分も大きくなったと、ちょっとうれしくなったのを覚えている。

自然と笑みがこぼれる思い出だが、その向かいのビルの一角、確か昔はそこに小さな花屋さんがあった所に、数年前から「占い」というあまりにもシンプルな看板が入り口にかかっていた。

真っ白に黒の文字、装飾も何も無い。看板も機械で出来るそうだから、どうとでもなりそうだが、漢字はパソコンの明朝体をそのまま使用した感があった。

しかし問題というか、本当に変わった看板は道の横に出ているまあまあ大きめの立て看板だ。


「まだ、つぶれていなかったのか・・・」Y子さんは素直に口に出し、自分の真横の物を見た。


「人に頼るな! 頼るなら言うこと守れ! 」


占い師の言葉とは思えなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る