第6話

 時夫が働いている会社「ネクストフューチャー」はビジネス、教育、ゲームと幅広く扱っているソフトウェアー会社であった。時夫は企画部に所属していた。最近目立ったヒット作がなく、部の誰もが奇抜な新しいアイデアを望んでいた。時夫は勇が持ってきたあの不思議な鏡のことが、脳裏に焼き付いて離れずに、このことから何かいい作品ができないものかと考えていた。突然暗闇の中に吸い込まれて暗闇の中をさまようことになってしまった不思議な鏡、日本の住宅の玄関からロンドンの骨董店へと一瞬の内に運んでくれた不思議な鏡、これらを具体的なゲームに出来ないものかと時夫は考えた。時夫は早速具体的な企画書作りに取り掛かった。久々に仕事に熱中した思いであった。毎日会社に遅くまで残り、細部に渡って構想を練って、文章にしていった。土日もほとんど仕事をしているようになっていた。勇は最近になって頻繁に鏡を通って時夫のところに来るようになった。勇に例の鏡を題材としたゲーム作りについて話すと、勇は乗り気になり応援してくれた。勇がいろいろ奇抜なアイデアを提示してくれたので、思いもよらず内容のあるものとなっていった。ほぼ一月して作品の原型が出来上がった。あとは制作部の方へ回すだけとなった。制作部の中のプログラムのセクションには時夫と同期で気のあう同僚がいて、なかなかいい作品ができそうだと言ってくれた。

 やがて、ゲームは完成した。時夫にとって自分が一から考えて企画した作品が商品化されることは初めてであった。物を作ることがこんなにも充実感があって、素晴らしいことであることを、実感として感じたことはこれが初めてであった。ゲームの名前は「ミラートリップ」と名付けられた。社内の多くの人からの推薦があって、この作品には高額の宣伝費をつけてもらえた。

ついに「ミラートリップ」の販売当日が来た。高額の宣伝費をつけてもらったこともあり、初日から順調な売れ行きであった。時夫は秋葉原のパソコンショップ内にあるゲームソフト売り場に入った。多くの売れ筋のゲームソフトのパッケージが陳列されていた。その中に「ミラートリップ」が置かれているのを見て、時夫はそれを手にとった。勇が購入して玄関にかけられた例の鏡と同じ形の鏡がパッケージに写っていた。あの鏡のおかげで、仕事がこれほど成功するとは夢にも思っていなかった。

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