Are you a Witch?
灰色のマフラーを首に巻き、Alymereは家を飛び出した。今日も暗い路地裏の、あの古本屋に行くために。
「ねぇねぇ、Merlin! Merlinもぼくと一緒に、テムズ川のカウントダウンの花火を見に行こうよ!」
ロンドンのテムズ川では、毎年大晦日に花火の打ち上げがおこなわれる。彼はすっかり友人になったMerlinを誘って、楽しい新年を迎えたがった。
「君には悪いけれど、私は人混みが嫌いなんだ。お兄さんと二人で、仲良く行ってきなよ」
MerlinはAlymereの言葉を聞くや否や、こげ茶色のフードを深く被り、あからさまに嫌そうな態度を取った。うら若い青年の姿をした彼は、今日は明るい髪を短めに下ろし、瞳は紫色に染めている。
「そんなこと言わないでよ。人ごみがいやなら、空を飛べばいいんだよ。Merlinなら、きっとできるでしょ?」
「随分と簡単に言ってくれるね。私の魔法の力は、便利な道具とは訳が違うんだよ」
Merlinはそう言うと、面白くなさそうに息を吐いた。Alymereは彼と出会って一ヶ月ほどになるが、今日の彼は何だか妙に不機嫌そうだった。
「Merlinは魔法使いなのに、空を飛べないの? じゃあ、他の人を消したりとか、時間を止めたりとかは?」
「人を消すのは簡単だ。一斉に魔法で眠らせて、地の底で暴れる竜に喰わせればいい」
妖しい笑みを浮かべながら、Merlinは開きかけの本を閉じる。Alymereは思わず首を振り、「違うよ、そういうことじゃない!」と叫んだ。
「そんなことをしたら、Merlinは人殺しだよ! ぼくが言いたいのは、花火が上がる時間だけ、他の人を消したいってこと!」
「はぁ、そんな都合のいい話があるもんか。とにかく私は、花火大会には行かないからね」
Merlinの瞳は冷たく、心なしか距離も遠い。Alymereは漠然とした不安に襲われ、ぎゅっとマフラーの端を掴んだ。冬の空気に当てられて、柔らかい毛糸も冷ややかだ。
「……今日のMerlin、なんだかおかしいよ。ぼく、何か悪いことしたかな?」
「悪いことをしたか、だと?」
Merlinはずいと顔を寄せ、Alymereの瞳を覗き込む。Alymereはさっと下を向き、両手をお腹の前でもじもじとさせた。
「だ、だって……。いつもより冷たいって言うか、怒ってるって言うか……。全然笑ってくれないし、話も怖いし……」
「怒っている、か……。それは全く、その通りだ。私は今、かなり腹を立てている」
じっとAlymereを睨みつけながら、彼は真実を語り出す。しかしその内容は、非常に不可解なものだった。
「君はいつまで、この世界にいるつもりなんだ? いい加減、目を覚ましたらどうだ」
「え……? 何言ってるの、Merlin? ぼくは朝起きてから、一度も寝てないけど」
「うるさいな。君の言い分なんて、聞きたくないよ。いいからさっさと目を覚ませ」
MerlinはAlymereの肩を掴むと、思い切り前後に揺さぶった。彼の美しい顔立ちが、力とともに徐々に歪んでいく。
「い、いやっ! 止めてよ、Merlin!」
「止めても何もない。君の居場所はここではないだろう。馬鹿馬鹿しいこの世界など、早く手放してしまえ」
首をがくがくと振られたせいで、Alymereの気は段々と遠くなっていく。白い本棚が霞み、埃っぽい空間がぼやけ、そしてMerlinの輪郭が消え失せた。
「いいか、Alymere。誇り高き騎士ならば、いつまでも王の傍にいることだ」
――Merlinの最後の言葉は、Alymereの耳には届かなかった。彼はどさりと床に倒れ、そのまま意識を失ってしまった。
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