壊れかけた私にやっぱり壊れかけたあなたとで愛を知った

第1話 格好いい女

「うら!金出せよ!それとも、ここで死にたいか?」

夏の日の夕暮れ、ビルの隙間で恐らくリーダー的男、《はらだあきら》と残り三人、が、彼ら曰、【おふざけ】。見慣れてしまった、まだ脅すような何かをしている方よりも、年下と思われる、男の子がカツアゲにあっていた。

頬と唇を真っ赤にして、ひたすら謝り、解放を訴える男の子、畑本鳴樹はたもとなりきは、いくらビルの隙間と言っても、人通りは普通にあるし、助けてくれる人の二、三人は平気でいると思っていたけれど、驚くほど、誰も助けてくれない。誰も視線もよこさない。唯早足で…、と言う一心で、無視する。最近の高校生や、大学生は、そんじょそこらの、つまり、みんな、怖いんだ。巻き込まれたくない、関わりたくない。自分まで痛めつけられてしまう。

「許して…ください…僕今日、おばあちゃんの誕生日で…プレゼント、プレゼントかわなくちゃ…」

「は?だからなんだよ?ババコンか?うける!!」

カツアゲを続ける四人は男の子財布から、小銭含まず、ありったけ、五千円を抜き取って、

「はっ!こんなんじゃ牛丼しか食べられないよ、ぼくちゃん。今度はもっと持ってきてね~」

そう言って、泣き声も聴かせられないほど小さく、

「クズだ…」

恐ろしさと、悔しさで、自分の出来る最大のやり返し、亮たちに毒を吐いた。

立ち上がろうとした時、



「大丈夫?」



声をかけてくれたのは、優しそうなかなりの美人の女の人の声だった。

「もう…良いです…もう…お金も取られちゃったし…僕弱いから…」

泣く泣く自分の運の無さと、力不足であることを思い知らされ、嘆いた。

すると、

「大丈夫!私が返してもらってくる!」

「へ!?」

男の子はその言葉に、驚く暇もなく、女の人は、さっきの四人を追いかけて行ってしまったようだ。

「む…無理ですよ!」

多分、肋骨何本か折れてる男の子が言う。しかし、その声は彼女の走るスピードに負け、彼女は姿を消していた。


「五千は安過ぎね?もっと狙おうぜ?」

「さんせーい!ま、五万は当たり前だろ!ってみてぇな奴!」

五千円札をひらひら人差し指と中指で挟んで、風と遊ばせていた。


「おい!待ちな!」

その言葉で四人が振り返った…いや、振り返るその隙も与えず、彼女は、そこらへんに転がってたパイプの棒で手腕らしい男に、思い切って背中を殴りつけた。


「痛ってぇ!!!」

思わずその男は、肩を抑えながら、よろめき、膝をついた。

「おい!あきら!大丈夫か!?」

仲間の一人が亮に、自分の肩を貸した。


「おいてめぇ!ふざけんな!!」

他の二人が、彼女をぶん殴ろうした。

しかし、彼女はひるまず、身軽に二人のパンチをすり抜け、次々棒一本で彼女の方が

が犯罪者になるのではないか…?

と周囲の人たちが心配するほど、パイプの棒を振り続けた。


ついに、一人で四人の男を倒した。手腕の男の手から五千円だけを持って、三十メートル戻り、カツアゲにやられた男の子に、


「…はい…おばあちゃん…待ってるよ?」


と言うにはかなりの体も傷を負い、命でもあろう、美女の顔

を台無しにしそうな切り傷もあった。


「あ…ありがとうございます…だ、大丈夫…ですか?」

「平気。早くまずは病院に行きなさい。タクシー止めるから」

「あ、でも僕、五千円しか持ってなくて、タクシーはちょっと…」

言いきらないうちに、彼女はタクシーを止めた。

何かドライバーに伝えると、彼女は、ひどいけがでうまく身動きできない少年を、抱え、体を引きずってタクシーに乗せてくれた。


しかし、この彼女の親切はこれで終わらない。


すっとポケットから三万円を出し、少年の手に握らせた。


「出しても構いませんか?」

タクシーのドライバーさんがそう言うと、

「はい。じゃあ、T病院まで」

「あ…お姉さん、いつどこで返せば…」

「要らない。早く、ほら、車出るよ」


そうして、まだざわざわしている道路で、完全にノックアウトされ、地べたに少し息が荒くなったままの、亮に、

「もう弱いものいじめなんてしないって誓えば、命だけは助けてあげる。どうする?」

「て…てめぇ…ふざけんな…」

「別にふざけてない」

冷たい声で彼女は亮の背中に百万の束をぺちっ!投げつけ、去って行った。

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