其の十 すみません
町の中心に近付いてきたところで、駅から学校に向かうジャージ姿の生徒がちらほらと目に入る様になってきた。すると、明らかに花の様子がおかしい。
「そ、宗ちゃん、そろそろ私降りて歩いていくから」
「じゃあ俺も降りて歩く」
「だ、だって誰かに見られたら」
それでピンときた。花は、俺と花が一緒にいるところを他の生徒に見られ、それが畑中吉乃に伝わるのを恐れているのだろう。確か畑中吉乃の部活は、……何だったか。興味がないから、そもそも知らない。
本当に困っている風だったので、仕方なく一旦自転車を止める。花は降りると、荷台の荷物を持とうとした。咄嗟にその手を掴み、止める。ぎょっとした表情の花を無視し、片手で自転車を支えたまま、俺も自転車から降りた。
手を繋いだ状態で歩き始めると、花は一所懸命手を引っこ抜こうとしたが、無駄な努力だ。絶対に離すもんか、と握り方を恋人繋ぎに変える。花が更に焦りだして繰り返し引っ張り……やがて諦めた。
よし勝った、と心の中でガッツポーズを作る。
「畑中に隠すつもりかよ」
「いや、その、でもね」
「俺と付き合ってることって、隠さないといけない様ないけないことなのか?」
だが、多分もう時既に遅しだ。周りの奴らは明らかにこちらを見て何やらヒソヒソと話をしている。だがこれで、これ以上花に悪い虫は付かないだろうし、且つ速やかに噂は広まるので畑中対策にもなる筈だ。
「……そう、そうだよね。隠す必要ないもんね!」
耳まで赤くした花が、急にこちらを見上げてにこっと笑顔になって言うものだから、花の蜜に吸い寄せられる虫の如く、顔を近付けてしまい。
あ、しまったと思った時にはもう遅い。
商店街のど真ん中で、白昼堂々花にキスしてしまっていた。
「そ、そそそそそそおちゃんんん??」
花が空いている方の手で口を押さえると、俯き加減でこちらを軽く睨んできた。睨む花も、滅茶苦茶可愛い。だが、正直俺も、今は余裕ゼロの焦りまくりだ。どうしようか。周りが騒いでいるのが聞こえてきたが、抑え続けていた七年分の想いは、もう止められなかった。
「花、好き」
自然に出て来てしまった言葉に、行動を乗せる。
三回目のキス。
すみません、止められませんでした。心の中で、花に謝った。
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