第71話 真打ち登場
レオンの背中越しから見えるレオンの瞳は、目線で人を殺せるのならばアルフレッドはとうに串刺しかレーザービームで黒焦げの穴だらけになって息絶えているであろうと思える程の眼光の鋭さだった。
「ナタは、僕のものだ! 後から出て来た奴が勝手に何をほざいてるんだ!」
アルフレッドが怒鳴る声がするが、レオンの背中に隠されて本人は見えない。ふとテーブルの反対側を見ると、ナッシュが恐ろしい笑みを浮かべて立っているじゃないか。主人であるレオンに少しでもおかしな態度を見せたら斬ってやるぜ、な顔をしている。この人、やっぱりちょっとやばくないか?
私は慌てて父とホルガーを見た。父は私の合図でナッシュを振り返ると、瞬時に察してナッシュの横に立った。ナッシュはそれに気付くと、残念そうに父に笑ってみせる。この人、あわよくば戦争を始める気だったんじゃないかと、私はひやりとしたものを覚えた。
しかし、私と目が合ったホルガーがちょっと涙ぐんでいるのは、一体何故だろうか。私の姿を見れたから、無事を喜んでいるのかもしれなかった。
王太子同士の口論は続いている。
「ナタはお前のものじゃない!」
レオンが張り合う様に声を荒げた。アルフレッドが怒鳴るとただ怖いだけなのに、レオンが同じことをしても安心感があるのだから不思議なものだ。
アルフレッドも、負けじと怒鳴る。
「ナタは僕のものだと言っているだろう! もう、第二夫人にすると決めたんだ!」
「ナタがそんなことを了承する訳がないだろうが!」
「いや! さっきしたさ!」
アルフレッドが勝ち誇った様に言ったので、私はレオンに教えることにした。
「私の面倒を見ていた侍女の喉元にナイフを当てて、脅してきたのよ。つまりあれは無効ね」
「そりゃ無効だな、ただの脅しだもんな」
レオンが成程、と答える。レオンの背中にさえ隠れていれば、私は普段の落ち着きを取り戻せるのだ。さすが猛獣の背中、頼り甲斐がある。
アルフレッドはというと、レオンの背中に隠れていた私が見えるようにと、真っ赤な顔で覗き込んでくる。そして、この期に及んでまだ言い立てるではないか。
「あの侍女は、まだ自由にはしていないぞ!? どうする!? お前が僕に逆らおうとすれば、あの女の命は……!」
お前ヒロインの相手役だったんじゃないのか、一体どこの悪役の台詞だよとでもいう様な台詞をのたまい、アルフレッドが更に続けようとしたその時。
「アルフレッド様! もうおやめ下さいませ!」
ひとりの女性の声が、王の間の扉の方から鳴り響いた。私が思わずにやりとしてしまうと、それを振り返りつつ見たレオンと目が合った。目だけで、お前か? と聞かれたので、私は小さく頷く。
逆光の中王の間に入ってきたのは、私の着替えを手伝った侍女に連れられたアンジェリカだった。そして、その後ろには、国王と、そしていつの間にかいなくなっていた宰相もいる。
私がこっそりと着替えを手伝ってくれた侍女にアンジェリカを連れてくるようにお願いした様に、宰相は宰相でこっそりと抜け出し国王を連れてきた様だ。ナイスアシスト、宰相。
アンジェリカを見て、アルフレッドはあからさまに動揺した。
「ア、アンジェリカ……? どうしてここに?」
「アルフレッド様、どうして私に相談して下さらなかったのですか!」
この小説のヒロインであるアンジェリカは、その印象的な赤髪をふんわりとなびかせながら、ゆっくりとアルフレッドに向かって歩いて来る。
と、アルフレッドは急いでアンジェリカに駆け寄った。
「アンジェリカ! 起き上がっては駄目じゃないか! 寝てないと、また具合が!」
「私は大丈夫です!」
アンジェリカは気丈に言うが、確かに私が婚約破棄の際見かけた時よりも、大分げっそりと痩せてしまっている。――だが、なんとなく、女性らしさが増した様にも見える。私はピンときた。成程、そういうことだったのか。そりゃあ言いにくいよな、と思わずアンジェリカに同情してしまう。
「――アルフレッド、アンジェリカのことだがな」
アンジェリカの後ろから宰相に身体を支えられながらゆっくりと入ってきた国王が、アルフレッドに声を掛けた。だが、アルフレッドは大慌てだ。
「ち、違うんです父上! アンジェリカはちょっとした病気かもしれませんが、すぐに治ります! だからアンジェリカをここから出さないで下さい!」
「アルフレッド、聞け」
「アンジェリカが無理しなくていい様に、ほら、あの様にナタも僕の第二の妻になると言ってくれました! だから公務はナタに任せられますから、だから!」
アルフレッドは、自己都合満載の自分勝手な理論で必死に国王に訴えかける。アンジェリカを手放したくない、その為にここまで色んな人を巻き込んで大騒ぎを起こしたのに、本人はまだ言い訳をしようとしている。
「父上! お願いします!」
アルフレッドが涙声で叫んだが、レオンは冷静だった。
「イシス国王!」
レオンの呼び声に、金髪に少し白髪が混じってきたこの国の王がレオンを見る。
「ナタは、俺の婚約者だ! お前の息子がナタを監禁した件については、別途話し合いの場を設けたいと思うが
レオンのその言葉に、宰相からある程度の状況を説明されたのであろう国王は、なんと深々とお辞儀をしてみせた。
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