第13話 三人寄れば文殊の知恵
ということで、いよいよマヨネーズ研究の開始だ。私達三人は、キッチンに横並びに立った。目の前には、昨日購入したボウルと泡立て器、そしてカゴ一杯の新鮮な卵がある。
すると。
「そもそもそのマヨネーズってのは一体どんな見た目をしてるんだ?」
レオンが至極当然の質問をしてきた。そりゃそうだ、見たことも聞いたこともない調味料をさあ作れと言われ、はい分かりましたと作れる訳がない。
何事も始めが肝心だ。まずはしっかりと、求める姿を想像出来る様にさせるのが先決だろう。
「まず、色は淡い黄色よ。そうね……月の色に近いかしら」
「卵の色じゃないのか?」
今度はホルガーが尋ねた。私は深々と頷く。
「どちらかと言うと、白に近いわね。そして不透明よ」
「ほう。それは液体なのか?」
レオンの質問に、私は首を横に振る。
「固くもなく柔らかくもなく、言うならば生クリームの様な感じかしらね」
「液体じゃないんだな。成程。味はどんなのなんだ?」
とこちらはホルガー。よしよし、二人ともかなりのやる気を見せてくれているじゃないか。いい傾向だ。
「甘くはないわ。若干酸味があったから、お酢も入ってると思うのよね。だけど卵とお酢以外に何が入っていたのかが分からないのよ」
レオンが腕組みをして考え込む。
「生クリームの固さというと、そこそこ固いよな。ということは、卵を固める何かが入っているってことだな。火は通すのか?」
その質問に対し、私は真剣な顔で首を横に振った。
「いいえ。卵は生のままな筈よ」
「ということは、火を通さなくても固まる何か……ということか」
ふむ、とレオンが考え込む様に言うと、ホルガーがそれに賛同する。
「確かにそうだな。ということは、卵を固めることが出来る食材を考えていけばいい……ってことか」
「この家には食材がないから、少しずつ買ってきて試すしかないか」
「そうしましょうそうしましょう!」
三人寄れば文殊の知恵とはよく言ったもので、あっという間に方針が定まってしまった。凄い、どんどんマヨネーズへの道が開いていくじゃないか。私はわくわくして、思わず笑ってしまった。歯が見えようが口を開けようが、もうどうでもいい。こんな楽しいことが待っていたなら、あの屈辱だって今や有り難いものでしかない。
「あは……っあはははっ」
「おい、どうした」
レオンがぎょっとした顔になると、一歩後ろに下がった。そこそこ失礼な奴だが、まあ理解は出来る。公爵令嬢がいきなり大声で笑いだしたら、そりゃあびびるだろう。
すると、ホルガーは私の顔を覗き込むと、にっこりと笑った。
「ナタは楽しいんだよな? 俺には分かる」
「あははっ! さすがホルガーね!」
「そりゃあもうずっとナタを一番傍で見てきたから、ナタのことなら大体分かるさ」
ふふ、とホルガーは笑うと、エプロンをさっと脱ぎ、私の手をそっと取りつつレオンをちらりと見た。
「じゃあ、買い物は俺とナタで行ってくるから、レオンは留守番をよろしく」
「おい」
レオンがイラッとした表情を見せた。私はホルガーを見上げて、言った。
「ホルガー、食材についてはレオンとも情報共有をした方がいいと思うんだけど」
「そう? ナタがそう言うならそれでもいいけど、でもナタは俺から離れるなよ?」
ホルガーはそう言うと、私の手を更にきつく握った。昨日のことがあるので、まあ理解は出来る。私は素直に頷いた。すると、レオンが馬鹿にした笑いを浮かべながらホルガーに向かって言った。
「何言ってんだ、お前こそ、今日こそスリに遭わない様にしないとなんじゃないのか?」
今度は、ホルガーがムッとした顔になってしまった。
「あれは荷物を持っていたからだ。両手が塞がってなかったら、すられることなんてなかった」
ホルガーの返答に、ふうん、とレオンが言った後、ニヤつきながら続けた。
「お前、そんな細い腕で、昨日みたいに襲われても戦えるのか?」
「……何だって?」
挑発する様なレオンの言葉に、普段は温厚なホルガーの雰囲気が一変した。ホルガーの顔には、一切笑顔がなくなっていた。私は慌ててホルガーの腕を引っ張った。
「ちょっちょっとホルガー」
すると、殺気立っていたホルガーの雰囲気が、少し大人しいものに変わった。ホルガーは、口を尖らせて抗議を始める。
「こいつ、ちょいちょい腹が立つことを言ってくるけど一体何なんだ? ナタ、泡立て器は俺が何とか作らせるから、やっぱりここは場所が悪い、屋敷に戻ろう」
それを聞いたレオンは、更に大きなニヤニヤ笑いを浮かべると、明らかに挑発する言葉を発した。
「なんだ、逃げるのか? この国の貴族は王太子といい随分と情けないんだな」
「なんだと!!」
ホルガーがレオンに向かって拳を振り上げる。すると、ようやくレオンのニヤニヤ笑いが
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