『またね』と言わない理由

 君はいつも、別れ際に「じゃあね」と言う。

 それがどうしたのと思う人も多いだろうが、もう一つ加えるとするならば、こうだ。

 君は「またね」と言ってくれない。


 私が「また明日」と言おうが、君は「じゃあね」と手を振って立ち去る。また会おうねと言おうが、賛同はせずに別れの言葉を告げるだけ。

 確証もなしに次も会えるからなんて、君は言いたくないだけだからなのだろうか。それとも、意図してそうしているのだろうか。

 ただそれを確かめようとしても、なんとなく探らないでもらいたそうな目を見てしまうと、大好きな君を傷つけたくなくて、なにも聞けずにいた。



 とある日の放課後、一緒に教室で残っているとき。君の友達が

「じゃ、俺はもう帰るわ~。また明日な」

 そう声を掛けた。君のことだから「じゃあね」とでも返事をするのだろう。そう勝手に思っていた。けれどそれは間違いで、君は彼に対して「うん、またね」と言う。

 どうして恋人の私には言わないのに、こうもさらっと友達には言ってしまうのだろうか。理由を聞くか聞かないか。悩んだ時間は長かったようで一瞬だった。


「ねえ。どうして君は、私に『またね』って言ってくれないの?」


 おそらく「そろそろ僕たちも帰ろうか」と言おうとした君のその口を、言葉で塞ぐようにして言った。真剣な顔をした私とは反対に、困ったように眉を下げて、「バレてたか」とでも言いたげな表情。

 鞄を持って立ち上がろうとしていた手を戻し、座り直す。


「えーっとね、実は僕、もうすぐ海外に引っ越すんだ。父さんの仕事の関係で」

 年度末までは日本で過ごすこと、いつ帰れるか決まっていないこと、そして私と遠く離れて会えないこと。

 もうすぐ会えなくなるから、「またね」を言うと嘘をついている様で、言えなかったらしい。友達に言えたのは、引っ越すことを隠したまま、海外に旅立とうと考えていたからだそうで。つまりは私には嘘をつけなかったと言うこと。


 それを聞いて、なんだかおかしくなってしまった。深刻に考えていた私が馬鹿みたい。

「ふふっ、なんで早く言ってくれなかったの?」

 遠距離恋愛なんて、君を想っていれば耐えられる。

「寂しくなったとしても、記憶の中から君を探し出すし、電話やメールだってできる。会いたくて会いたくてしょうがない日は、次に見る君の成長した姿を想像して眠る」

 私は絶対、君の心から離れないよ。

「忘れろなんて言われても忘れてやんないし、別れろなんてまっぴら。君が私を想ってくれている限り、私の方から離れるつもりないもん」

 もしそのつもりなら、それは残念でした。そんな決心は根っこから掘り返してやる。

「……もー、君には負けたよ。隠しててごめんね。どこにいても君を愛し続けるよ」

「あ、あい、しっ……!」

 にひっといたずらに笑う顔は、今までで一番かっこよくて可愛かった。

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