12 未明

 星が落ちるような静寂。

 夜の帳が広がる。

 進む。進む。進む。

 静寂を破る声。

「まだ戦うんですか、隊長。私たちは誰も彼もが死に絶え、あなたを一人にしてしまった」

「何を言うんだ。君たちはここにいる。我々の願いはもうすぐ手の届くところまできた。ならそれでいい。それで十分だ」

「……」

「おかしいですね、隊長、私たちはこれほどに変わり果ててしまったのに、まるであの頃のよう」

「……」

「なら戦いましょう。いつか私たちを裁く者が現れるまで」


 声。


 ――たとえ死が我々を分かつとも、

 ――傍にいることを誓います


 こえ。


 黄昏のその先を見た眸で。何度だって繰り返した会話。ちぐはくでどこまで正しいのか、どこまでが本当の発言かだってわからない。

 レネゲイドウィルスを集めて行った誓いで確かに自分は堕ちていくのを感じた。


 ふたたびの静寂。

 進む、進む、進む。

 ひたすらに前へ。


「どれだけ歪めても、君たちと信念の元戦った真実は変わらない」

 本当に?

「私たちは人間によって地獄に放り込められ、塵芥の如く使い潰された」

 本当に?

「私達はそれがおかしいと声をあげて戦った」

 本当に?

「たとえ狂乱の果てにみじめに死んでも構わない。それだけは――それだけは間違いではなかったのだから!」

 本当に?

「……どうして、なにもあなたは言わないんですか……イクソス隊長」

 問いにはしじまか答える。

 こんなふうになってから声をよく聞く。

 だのに、この人だけは何も言わない。

 不十分な願いと非力な望みで作られたできそこない――きっとあのときは願いが弱すぎたのだろう。ナタリア、ルアン、ペリア、ルーイ……はきちんと出来た。

 チョコレイトのように甘くて、ウィスキーのように濃い血の絆。

 それをどうしても隻腕の従者からは感じられない。

 だから

「あの女はあなたが差し向けた」

 なにもかも知っているといいたげになじる。

 自ら堕ちようとした自分に駆け寄って、必死に手を伸ばした赤毛の女は、今にも泣きそうな顔をしていた。

 とてもみっともなく、苦し気に。そんな顔も出来るのかと、はじめて知ったとき、なにもかも理解した。

 

 ――あの女の気持ちも、自分の気持ちも。ぜんぶ、ぜんぶ。だから

 静寂。

 しじま。

 進む。進む。すすむ。

 とても深く、底のない先へ。

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