第88話 その行動は嘘か真か⑤
動揺しているあたしに気づかず、女性はコロコロ楽しそうに笑っていた。
「幼馴染っていいわねぇ。恩師のお祝いのために王都に一緒に行くんですって? 旅って大変よね。子供なのに偉い!」
「幼馴染」
という設定にしたのか。
それなら確かに、色々知っていても変ではない。
「恩師にお世話になったって聞いたわ。初めての旅だと緊張するわよね。湖を渡ればすぐそこが王都……といっても一日ぐらいは歩くかしら? でも近いから大丈夫よ」
恩師……親かな。相当お世話になった。
うん、倍返しにしたいほど。
それしにても、初耳のあたしも無理なく頷ける設定を、作りだすって凄いぞ。
誰の話を聞いているのか、分からなくなってくるのが、玉に傷だけどな!
そう己に言い聞かせるも、予想外すぎる内容を聞いて、混乱しているのは事実だ。
「あっちの港町なら、直通で馬車が出てるし、疲労で倒れるってことはないと思うわ」
女性は両手を合わせる。
「貴女の容体が変わらないように、ずっと看てるって言ってたけど、あの歳で堂々としていて凄いわね。昼夜しっかり看病していたわよ。ほんと、良い人ね」
「……はあ」
困惑しすぎて生返事をすると、彼女はハッと我に返って口元に手を添える。
「あら嫌だ。内緒にしてくれって言われたんだったわ!」
そして照れたように「ふふふ」と笑って濁す。
「今の話、聞かなかったことにしておいてね。あらあら? 鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔して、どうしたの?」
「いーえ、ナンデモアリマセン」
思わずカタコトになったが、女性は全く気にしていない。
あたしは気を取り直して、「本当にお世話になりました」と再度お礼を言う。
女性を見送ったあとに、ゆっくりドアを閉める。
なんだか、雛がピヨピヨ鳴きながら、頭の上をジャンプしている感覚がする。
ピヨったというやつかな。
「んーーーーー?」
椅子に腰掛け、今聞いた内容を反芻する。
うん、ちょっと意味が良くわからない。
グウウウウウウウ……。
腹の虫がなった。
とりあえず何か食べて頭に糖分送ろう。
リュックを漁って非常食を取り出す。
……ところで、机に置いてある紙袋に目を留めた。リヒトが置いていったやつだ。一応、袋の中を漁ってみる。
「食べやすモノっていってたけど、あいつのことだから、悪戯心満載で、脂分が多い吸収しにくいものだったりして。いやいや、もしかしたら、食べ物ではないかもしれない」
取り出すと、瓶詰にされた一人分の料理が三つ、入っていた。栄養満点で消化のよい、お粥二つとスープ。
「………うわ」
思わずのけ反り声をだす。
説明文を読むと、温めいらず常温で食べれるらしい。
コトンと机の上に置くと、備え付けのスプーンがあることに気づく。
「……うわ」
ちゃんと三本入っていた。
そして150mlの瓶詰の果汁ジュースも入っている。
「うわ」
訝しげに眺めながら、一つ一つを並べてみる。
ちゃんと食べられる物で、尚且つ、おいしそうな物が入っていた。
これは予想外だ。
疑念の念を瓶に投げつつも、いつまでも腕組みをしているわけにもいかず、意を決して食べてみる事にした。
恐る恐るスプーンですくって卵粥を一口。
丁度よい塩分と、卵の甘さと出汁の香りが、口に広がる。
「ん。美味しい」
ゆっくりと咀嚼して、次を開ける。
アカミサーモンのお粥と野菜とツナのお粥だ。
「美味しい」
結局、全部胃に収めた。
ジュースはビタミンたっぷり、五種類の果物が使用されている。
一気に飲み干した。
「ふぅ、美味しかった」
空になった瓶達を眺め、考えるポーズをする。
「…………うーん。なんなんだ? あいつ」
言葉と行動がチグハグすぎて、意味分からない。
言葉では人を貶しているが、行動は人を尊重している。
なんだ。ツンデレなのか?
「まぁいっか。気にするのはやめておこう」
自分の不利益にならないための行動だった、と結論付けた。
どうせ答えは出ない。
終わったことだ、深く考えるのは止めよう。
夜に魔王を片付けるため、体力を戻す。今はそれだけに集中しよう。
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