第13話 初めての町の噂③



 「そろそろ行くかな」


 カーテンを少し開けると外は真っ暗だった。家からの明かりがちらほら漏れている。


「わぁ、明るい」


 驚くべきは道に灯りがあることか。夜道は明るそうだ。

 

 背伸びをして体を軽くほぐし、身支度を始める。

 刀を腰につけ、右太ももと左上腕にナイフを装備し、更に暗器を体中至る所にセットする。身体検査しても分からないよう絶妙に隠す。武器お断りだったら刀とナイフは外そう。

 

 宿は夜も自由に出入りできるようだった。鍵は自分で管理するスタイルなので、ポケットに入れておく。


 てくてくと、人通りが少なくなった道を歩いて数十分後、豪華な酒場へ到着する。


「うっわ。昼間かここは。目が痛い」


 きっとこの辺は光輝石が大量に手に入るのだろう。決して安いものではないが、この量を設置できるのならば、相当な財力があるのだろうなぁ。


 そんな事をぼんやり思いながら、物怖じせずドアを開けて中に入ると、真っ先に軽やかなヴァイオリンの曲とピアノの演奏が耳に届いた。


「わぁ」


 店内に居た客達は、酒場の外見に負けず劣らず派手な装飾を付け、質のよさそうな衣服に身を包み優雅に談笑していた。


 間違いない、ここは金持ちが集まる酒場だ。

 ちょっと場違いだったな。どうしようかなぁ。


 と、数秒ほど途方に暮れていたら、


「おい」


 後ろから胴間声で呼びかけられる。

 声の方に視線を向けると、執事服の男が見下ろしていた。どうみても上品さは感じない。


「お譲ちゃん。ここはてめぇみたいな身汚い輩が来るところじゃないぜ」


 口調はどこにでもいる普通のガラ悪い兄ちゃんだが、服装から判断するにここのスタッフだろう。

強面で威圧感たっぷりの無骨者に出くわせば、普通なら冷や汗をかいて怯えるだろう。村にこの手のタイプがゴロゴロいるので、あたしには全く効かない。


「さっさと帰りな」


 恐らく、この人は用心棒だ。

 あたしを不審者とみなして蹴散らしにきたのだろう、仕事熱心だな。

 しっかしまぁ、服が顔に似合ってないなぁ! その程度の着こなしだと服が泣くぞ!!


 あたしは少しだけ失笑をして、声をかけた若い青年に尋ねる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


「ああ? 何を聞くって? 金持ちに取り入ろうとかか?」


 あたしは即座に真顔で否定する。


「いいや。情報収集。災いの噂について聞きたいだけだ。あんたは何か知ってるか?」


「!?」


 男の顔色が分かりやすい程青くなったが、すぐに赤くなったと同時にこめかみに血管が浮かんだ。


「そんな話、知るか!」


「めっちゃ知ってそう」


「さぁさぁ! ガキは出ていった! じゃないと………!」


 眉間に皺を寄せて怒鳴るが、ふと、視線があたしの服に止まった。

 そして少し間を空けて真顔になると、男は片腕をぶんと振って払いのける動作をする。あたしには風がくるだけでギリギリ当たらない距離だ。


「ここじゃ噂は毛嫌いされてる! 他所へいけ!」


 男は凄い剣幕であたしを威圧する。


 あたしは半眼でそれを眺めつつ、軽く肩をすくめる。


「ふーん。わかった、お邪魔様」


 喧嘩しても勝つけど、ここで騒ぎを起こしてもなんの得にもならない。

 あたしは早々に立ち去った。


「なんなんだ。モノノフなら、もう一つの酒場に行けよ」


 耳に聞こえた音で背後を振り返ると、額を押さえている男がため息を吐いていた。ちょっと顔色が悪く見えるのは気のせいだろうか?


 首を傾げつつ、さて困ったと唸る。

 一つ目の酒場は五分ほどで終了してしまった。

 これは完全に選択ミスだな。

 時間を無駄にしてしまった。


 それでもまだ夜は深まったばかり、まだまだ酒場は営業しているはずだ。

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