第7話 苦情!!

「なん……だと?!」

––– そのメールに目を通した私は、そう呟いていた。


『御社製品を使用したお客様より、不具合が発生しているとの情報が入りました。お客様は明日にでも見に来てほしいとの希望ですが、あいにく、弊社のCSカスタマーサービスの日程が合いません。そこで、御社にて現場調査頂けないでしょうか?』


 つまり、これは『問い』ではない。

「命令だ…」

 そう言い、私は天を仰いだ……


「所長どうしました? 上を向いて歩こうですか?」

 …このT君侮れんッ!平成生まれのくせに昭和ネタをブッ込んで来やがるッ!


「T君、冗談はさておきクレーム対応が入ってしまった。状況から私が対応するが、明日の客先提案、1人で行けるか?」

 その言葉に神妙に頷くT君。

––– 実に頼りになる人物だ。2000万円の案件頼んだぞッ!

 こうして、私は急遽クレーム対応に出掛ける事となった。

 場所は熊本県……「近いな」

    天草市……「うん、近くないな」


       (翌日)

 私はAM6時に営業所を出発する事にした。

辺りは深夜の如く真っ暗で、静まり返っている。

 これは、私も驚いたが九州は日の出が東京や大阪に比べ遅いのだ。体感的に約30分位は遅い、しかしその分、日が長いのである。


 まあ、そんな事より…

「エンドユーザーに迷惑をかけてしまった……さぞかし困っている事だろう。しかし、『新築』という事が気にかかるな」


 私の会社は、家の内装に使われる製品を作っている。 勿論、形ある物いつかは壊れるが、今回のクレームは新築のお客様との事……こんな事は稀なケースであり、不思議でならなかった。


 そうこうしているうちに日は昇り、私の目には美しい世界が広がってゆく。

 熊本県、天草市–––

大矢野島の東方、八代海に浮かぶ周囲約15kmの美しき島。

 朝日を受けた海原は、まるで海面の上を宝石が踊る様に煌めき、–––って、詩を書きに来たんジャナイ!


 かくして目的地に到着し、『失礼します!』と、私は、お客様宅の敷居を跨いだのだった。

 結果…… 取り付けミス。

ふははははははは!!!!

 おっと、危うく我を忘れる所だった!

私は、正しく設置して正常に動く事を確認すると、お客様に報告を行った。すると…

『わざわざ、遠い所有難う御座います。つまらないものですけど……』と、缶コーヒーを2本も頂いてしまった。

 迷惑を掛けたのは此方の筈。なのに…

なんて心の美しい方なんだぁああ!!

 多分、人類が天草に住めば、争いが無くなるのかも知れないと思った。


 さて、ここからが本題だ。

天草市の名産を皆さんはご存知だろうか?

    『KU-RU-MA-EBI』

 そう!あの高級食材である。

私は昨晩調べたのだよ。絶対食べて帰るのだよ!! ビバ!営業職バンザイ!!

 私はトキメキを胸に、昨夜リサーチ済みの

『マルケイ水産』さんに向け、ステアリングを切った!!


 ……なん…だと?

そこで見たのは『本日、臨時休業』の文字。

ワタシ、漢字、ヨメマセン。コレは、ナント、

ヨムノ……Deathかぁあああ!!

 マジでスリラー!流石はマイケル水産!

(ゴメンナサイね。マルケイ水産様。あなたは悪くない。悪いのはコロナだ!)


 くくく…コレが絶望?

––– 生ぬるいわッ!!

 こんな事もあろうかと、プランBも用意していたのだよ! これこそ、営業職の基本!

人は言う、職業病と!


 プランB『水天』様。

此処には1日限定20食の『海鮮地魚丼』という、奇跡がある。

 限定、なんと甘美な響きであろう事か。

私は頭の中で何度もシミュレートされたルートを、ひた走った。

 そして、営業中を示す、のれんが掲げられたお店を見た時、歓喜に打ち震えたった。


 私はスキップしそうな脚を宥め、颯爽と、のれんに腕押し(はい?)店内に、『こんにちわ』を、ぶちかましてやった。

 「いらっしゃいませ!!」

ここから、私の伝説が始まるのだと本能が告げていた。

 生簀で泳ぐ車海老と鯛やヒラメ…

そして、知ってますか?ヒオウギガイ!

『ここは…竜宮城か…?』


 どこぞのTVショッピングの様に、価格を勿体ぶるのはやめよう。 

  【海鮮地魚丼 1520円(税込)】

決して安い金額ではないが、私の近況ノート『飯テロ』を見てほしい。


https://kakuyomu.jp/users/napc/news/16816927860555133295


 これが全てだ、真実だ!


 説明しよう!

丼の上で咲き乱れる、鯛、ブリ、ヒオウギガイ、ヒラメ、縁側ぁ! くくく車海老!

トドメは太刀魚の炙り(その場で炙ってくれた!)etc…

 そして、白味噌の味噌汁の中には、ごろっと多分ブリ。

 生きててヨカッタ。有難う、日本!


 ……味? 聞いたら、後悔するよ?

   ウマスギル、ワタシ、カンドウネ!


ルルルル…おっと? T君から着信だ。

『所長?! どうですか? 無事ですか?

こっちは……助けて欲しいです』


 ––– あ、T君? ゴメン、現実逃避してました。

『ああ、わかった!直ぐに戻る!』


 きっとT君にも良い経験になっただろう。

おっと、海鮮丼の件は内密に頼むよ?

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