あるサラリーマンの非日常
なかと
第1話 襲来!!
––– その日…
我が福岡営業所に衝撃が走った!
それは、一本の電話から始まったのだ。
「はい!Nです!!」
私は、客先近くで停車中の車内で、会社携帯に掛かってきた見慣れない番号に出ると、営業モードで元気よく通話に応じた。
「N君か? ご苦労様」
……わかる、わかるぞ!
誰か知らないが、身体の芯まで響く声の重み、只者では無いという事が!
…しかし、この番号は得意先様しか知らない筈、一体どこの重役様だ?
私の脳はフル回転し、煙が上がり始めた頃、その相手はこう言った。
「カイチョウです」
…快調
ふむ、最近運動しているためか、すこぶる体調が良いし、野菜もよく食べてるから毎朝快調でもある。
……うむ、根本的に違うな。
…怪鳥
貴様が見ていたのは…幻影だっ!!
俺は何度でも甦るっ! 不死鳥の如くっ!
……ゴメンナサイ、違いますね。
はい、気付いてました……会長!?
「お疲れ様ですっううう!!」
※この間、実に0.2秒の出来事だった!
本来、会長からの連絡は秘書から入る。
これはまごう事なきオーバーラップ現象であり、ノーガードもいいところだった。
「直接ご連絡下さって、如何されましたか?」
私のミジンコの脳はスパーキン寸前だったが、真意を掴もうと必死だった。
「いや、福岡に行こうと思ってね」
N・A・N・D・A・T・O :*+.\(( °ω° ))/.:+
おわかり頂けただろうか
只今をもって、ノーミス前提のヘルモードに突入した事を。
「左様で御座いましたか! お待ち致しておりますので、是非、お越しください!」
…と、叫ぶ私。
この時、オーガに対面した軍人の『ビック・エッグ・サァー!!』と、叫んだ心境を私は理解した。
「営業所の皆んなと食事でもどうかね?」
ここでの選択肢は二つ。
『はい』か『YES』
私の答えは「はい!喜んで!」だ。
会長の『詳細は秘書から連絡する』という言葉で一旦電話を終え、すぐ様アイパットのメールを確認する。
無駄に更新連打。当たり前だが、連絡は来ていない。
そのメールが届いたのは営業所に戻った16時だった。
『会長は○○日の14時に福岡空港に到着します。お迎え宜しくお願い致します』
ウオォぉおおお!!
今ならわかる、エヴァが暴走した時の気持ちが!!
14時!? pm4:00 じゃなくて?
営業マンの基本?(と、思っている)だが、
客先に提案する際は少なくとも3つのストーリーを用意する。俗に言うプランABCだ。
そこで問題だ。
14時着を逆算すると、会長が飛行機に乗るのは12時である。
昼は食べて来るのか来ないのか?
これは序章に過ぎない、そこから考えられる行動パターンの数々は、ビックバンに似て爆発的に膨れ上がる。
営業所にお招きするタイミングは?
どこか観光した方が良いだろうか……
チェックインはいつが良いだろうか?
私一人の力など、たかが知れている。
ここは、伝家の宝刀『他力本願』を使わねばなるまい。
そう、全ては情報だ! 現代において、情報は強力な武器となる。
営業本部長に相談しよう、そうしよう!
RRRR…
「おう!N、どうした?」
営業本部長が、いつもの様に明るく電話に出てくれたのが私に勇気を与えてくれる。
「実は…会長が福岡に来るって連絡あったんですよ!」
「わははは!サラリーマン人生掛かってるなぁ!」
……笑いごとジャナイ。
その後、お優しい本部長から会長は何でも食べる。元気よくしていれば大丈夫という、
情報を入手した。
「え〜、皆さん。注目」
私の電話の内容で、優秀な福岡営業所メンバーは察知していたはずだったが、改めて、報告をする事に…
「……来ます」
「所長!?いつですか? 僕、会長に会った事無いっすよ!」
と、言ったのは26歳でZ世代だけど、酒豪のT君。
「わぁ!美味しいもの食べれますね!」
と、言ったのは○○歳の超優秀な女性社員のIさん。
やはり、女性は肝が据わってるし優秀だと改めて思い知らされる一面だった。
「それでは、只今より…きたる来週の食事会場について市場調査を行うっ!予算の上限は無しだっ!!」
こうして、おひとり様¥30000-(税別)の、最上級海鮮コースを予約するに至る。
ここに海鮮(開戦)の火蓋は切られたのだ!
––– 続く?
※ちなみに、高級魚の『クエ』ですが、福岡では『アラ』と呼びます。
アラ鍋と言うと、私のような関西人は魚の頭などの鍋と勘違いしがちですが、クエ鍋の事を指します。
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