第1話:私の恋

 初めて恋をしたのは小学生の頃。相手はクラスメイトの女の子。いつも一人で本を読んでいて、遊びに誘ってものってこない一匹狼みたいな子だった。

 私は彼女のそんなクールなところに惚れた。だけど、近づきたいとは思わなかった。見ているだけで満足していた。


 しかし、ある日のこと。友人に彼女が好きだと打ち明けたら、お節介な友人は私と彼女をやたらと二人きりにさせようとした。いつしか、彼女の方も私に興味を示すようになり、相変わらずクラスの輪には入らなかったけれど、私とだけは話すようになった。

 誰も知らない彼女の一面を少しずつ知っていくたびに、距離が詰まっていくたびに、私の彼女への想いは増していった。けれど、それ以上近づきたいとは一切思わなかった。

 それなのに中学生になると、私と彼女の関係を進展させようとするお節介な輩が増えた。私は別にそれを望まないのだと言っても、誰も聞かなかった。『同性同士の恋愛は今どき珍しくないから大丈夫だよ』なんて言って。私は別にそこを気にしていたわけではないのに。

 そんなある日のこと、彼女が私に言った。


あざみって、私のこと……その……恋愛的や意味で好きなの? 友情的な意味で好きなの?」


 私は正直に「多分恋愛的な意味だと思う」と答えた。すると彼女の表情が一瞬明るくなったが「だけど付き合いたいとは思わない」と続けると、ショックを受けたような顔をした。


「えっ、なんで? 好きなんだよね?」


「好きだよ。でも、恋人にはなりたく無い」


「なんで?」


「なんでって言われても……」


「私も莇のこと好きだよ。恋愛的な意味で。君と恋人になりたい」


「え……」


 それが冗談ではないことは、顔を見れば明らかだった。戸惑う私に彼女は「君といるとドキドキする」「いつも君のことを考えている」「君が誰かと付き合うことを考えるとモヤモヤする」と畳み掛けた。そして「恋愛的な意味の好きって、そういうものじゃないの?」と泣きそうな顔で問いを投げた。

『君といるとドキドキする』『いつも君のことを考えている』『君が誰かと付き合うことを考えるとモヤモヤする』彼女の挙げたは、全て私のと同じだった。だけど、決定的に違うのは、彼女は私が同じ気持ちだと知って嬉しかったことに対して、私は彼女が同じ気持ちだと知ってショックだったこと。

 それを正直に伝えると「付き合いたくないのに誰とも付き合ってほしくないなんて、そんなの恋じゃないよ。ただの独占欲じゃない」と彼女は言った。その通りだと思った。


「分かってる。わがままだってことは。だから、聞かなくて良い。でも……本当に、好きなんだ。好きなの。誰のものでもない君が好き。誰のものにもならない君が好き。私を好きじゃない君が好き……だった」


 好きなのに、彼女の気持ちに応えられない。付き合いたくない。誰とも付き合ってほしくない。そんな醜い感情を彼女にぶつけてしまった自分が嫌になり、涙が出てきた。彼女は言う。「泣きたいのはこっちだよ」と。私はただ、謝ることしか出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る