灰色の孤樸

22時55分

灰髪の聖女

第1話 灰色の変質者


 久方ぶりに目にした外海の世界は、色とりどりのに満ち溢れていた………。



(ワァァァ♪ いいなぁいいなぁ………、ねぇ、ねぇね様。美夜もいつか、いつかお空とべるようになれますか?♪)



 かつて可愛い義妹いもうとがベッドの中、つぶらな瞳をキラキラとさせながらに夢見ていた、絵本の中の空想きせき。人が空を飛び、火を、水を、風を、雷を、摩訶不思議な神秘の力を思うがままに行使する。


 そんな非現実で、非常識な、超常であったはずの絵空事きせき


 それこそ、粉々に斬り捨ててしまいたくなるほどにりな奇跡達が、この世界には蔓延している………。




 ************




「こここ、来ないでください!」


 人気無い路地の裏。

 宵闇の黒き使者より逃げ惑う白き外套ローブの少女は袋小路へと突き当たり、カタカタと震える追手こちらへと差し向ける。


「そそ、それ以上近付けば、よよよ、容赦はしません!」

「………」

「ほ、本当に撃ちますよ!?」

「………」

「撃ちますってば!」

「………」


「アアア、『氷棘弾(アイスニードル)!!!』」


 カタカタと怯えに震う杖先と、ひとを撃つことへの怖れや惑いにギュッと瞑られる眼鏡の奥の瞳。

 少女の心内を体現するが如く、杖より放たれた蒼き氷魔弾は明後日の方へと飛んで行く………。フン、戦場いくさばでは迷った者から死んで逝く。


「ハワワワワ、ドドドどうしましょう!  わ、私、本当に撃ってしま………あ、アレ?」

「……動くな」

「ヒャッ!」


 頸に突き付けられる黒珊瑚の短刀。

 突然に背後を取られた少女は小さく悲鳴を漏らし、手にする杖を落としてしまう。


「良い子だ。其方そなたの感じた通り、動けば殺す。叫んでも殺す。助かりたければ、暫しの間大人しくしていろ」


 少女はコクコクコクと、無言のまま震える様に小さく頷く………。


「コホン! では。す、すまないが些か………。い、些か其方のみゅ、みゅねあらためさせてもらう! い、良いな、動くな?動くなよ!?」


 俺は焦りと多少の背徳に上擦りつつ、少女の外套ローブへと手を掛ける………。


「キャッ!」


 ドクンドクンと少女の高鳴り伝う柔温かい襟元の感触と、髪より香る甘き匂い。ボタンに固く護られし少女の不可侵領域に俺の指が触れると、少女は再び小さな悲鳴を上げる。


「………い、痛く、しないでください、ね?」

「なっ!!!?」


 か、勘違いするなよ!? 俺は別にこの眼鏡少女に欲情しているワケでは無いからな! だ、断じてうからな!!!


 俺はただ、こ、この少女の胸を………、


 外套ローブの上からでもタワワと判る、この眼鏡少女の少女らしからぬ豊穣なる胸をねばならないだけだ! この眼で直接見て、確かめねばならない事があるだけなのだからな!


「い、いざ、尋常に!」



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