第6話
「結局お客さん来なかったな……。すっぽかされてんじゃん、お前」
夏月が膝の間に折りたたんだ自転車を挟みながら言う。僕は溜息をついた。電車のガタゴトいう心地いい振動に身を預ける。
「嘘に決まってんじゃん、あんなの」
自宅を出発してから電車に乗って、5つ離れた駅にある公園で半日を過ごした。何やらしかつめらしい顔でベンチに座っていた彼の神経は昼時にゆるみ、「腹減ったな……飯食っていい?」などとランチボックスを広げ、しまいに全力でブランコを漕ぎ出すものだから、本気で腹が立った。
「はぁ?!嘘だったのかよ?俺ずっと緊張して待ってたのに?」
「その割にはのんびりご飯食べてたし遊んでたじゃん」
「だって腹減ってたら戦はできないだろ!てか、まじで何の時間だったんだよ!」
「さあね、当ててみなよ」
「お前なあ~!」
彼の抗議を適当にあしらいながら明日の計画を立てる。明日も来る気だろうか。面倒だな。もっと早い時間に出発しなければ。などと考えていたら電車が混んできた。おもむろに夏月が立ち上がる。
「大丈夫?座る?」
彼は目の前の吊革に掴まっていた女子中学生に声をかけた。彼女はびっくりした顔をして、それから弱弱しく笑って「ありがとう」と言った。なんとなく僕だけ席に残るのも気が咎めて、夏月と一緒にドアの前あたりまではける。
「なんであの子に席譲ったんだ?」
「え、だって具合悪そうだったろ」
もう一度さっきの中学生を見やると、彼女は確かに青い顔で目を閉じていた。
「大丈夫かね」
彼もちらりと視線を向けて、心配そうに言った。
「なあなあ、明日も同じとこ行くの?つか昨日は?その前は?」
「明日は隣県の博物館に行く」
朝からずっと無視し続けてきた質問に答えると、彼は目を丸くした。
「最初に言っておくけど僕がやってるのは不毛なことだ。それでもいいなら来てもいい。ただし理由は話さない」
彼はニッと口の端を上げた。
「いいよ、それで」
先に降車すると、
「また明日なー」
という声がドアが閉まるとともに遮断され、電車に運ばれていく。
「また明日、か」
僕は人込みに揉まれながら改札を抜け、家路についた。
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