叶うのならば、もう一度。

野菜ばたけ@『祝・聖なれ』二巻制作決定✨

第1話 冬が明け、春になる頃



 カラカラと窓を開けてみると、淡いグリーンのカーテンがふわりと煽られ弧を描いた。

 お日様と花の淡い香りが、室内に滑り込んでくる。


 思えば久しぶりに窓を開けたかもしれない。冬はずっと肌寒かったし、最近はあまり調子も良くなかったから。



 カーテンの隙間から垣間見えた窓の外、人の手が入った花壇には、赤、白、黄色とチューリップが行儀よく並んで咲いている。

 病室から出られない私のような人間にも、季節の移り変わりを優しく教えてくれる風景だ。

 しかしそれをどうしても「綺麗だ」とは思えなかった。


 ――時間なんて、もう少しゆっくり流れてくれて良いのに。


 入院したのは冬だった。

 なのに、気が付けばもうすっかり春。私の命の灯も、もう細々としたものだ。


 

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