第2話 闘技場の治療室

 

 闘技場に背を向けた俺は扉を開け放ち、石で作られた通路に飛び出た。

 大急ぎで階段を降り、観客席と入場口エントランスを繋ぐ通路へと出る。

 つい先ほどまで聞いていた歓声を振り切るように、俺は全力で駆け出した。


 必死になって走る鼻に、香ばしい匂いが漂ってくる。

 闘技場で最も広く作られたこの通路は、冷えた飲み物や軽食を購入する客のために、大会期間中はいつも多くの出店でみせの屋台が並んでいるのだ。

 間も無く始まる1回戦第2試合に向けて、飲食物を購入する人の列ができていた。


 麦酒ビールや焼き鳥、揚げパンなどの屋台が並ぶ中を、俺は人にぶつからないよう注意しながら走る。

 その途中、闘技場を支える巨大な石の柱に寄りかかりながら話す男たちの会話が耳に入った。



「あちゃあ、またピノラちゃんは初戦敗退かぁ」


「まぁ仕方ないさ、毎度の事だしなぁ」



 どうやら先ほど行われた第1試合を見ていた観客のようだ。

 男たちは、出店の串焼きを片手に談笑している。



「動きは早いから盛り上がるんだけどな〜。でもあの『軽さ』じゃあ、相手は倒せないだろ」


「そうだよなぁ……仮に10発、20発と打ち込んでも、相手の1発を貰って逆転されちまうんじゃ、勝ち目なんかねぇよ」


「ま、あの子が1回戦負けするのを見るのも、この闘技会グラディアの風物詩みたいなもんだからな、ハハハ!」



 焼き鳥を串から啄ばみながら笑顔で話す男たちの話を耳にしてしまい……俺は悔しさで唇を噛み締めた。

 走りながらやってしまったものだから、唇の端から血が滲む。

 だが、俺自身そんな痛みにも下馬評にも構っていられない。

 目的地へ少しでも急ぎたい気持ちで一杯だった。


 屋台の並ぶ通路から少し離れた場所に、小さな木の扉が見えてくる。

 金属で補強された正面には『関係者専用』と書かれた札が取り付けられているが、俺は勢いよく開けて飛び込んでゆく。

 その先には、混雑していた客席周辺の階段とは異なり、狭く薄暗い階段が地下へと続いている。

 ここを利用できる人間は限られている。

 この闘技会グラディアの出場者と、その関係者だけだ。

 俺は誰もいない階段を一段飛ばしで駆け下りて行く。


 突き当たりのもう1枚の扉を開けると、そこにあるのは大きな地下通路だ。

 天井も高く、横幅も広い。

 大柄な『獣闘士グラディオビスタ』たちも難なく通れるように設計されているためだ。

 それに、ここは大会で負傷した者たちが数人に抱えられて治療室に運ばれる時にも使用される為、余裕を持って設計されていると聞いた事がある。


 あの子も……つい先ほど、ここを運ばれて行ったはずだ。


 そんな考えが頭をよぎった瞬間、俺の足は無意識のうちに速度を早めていた。

 気付けば、客席からずっと走ってきたせいで息も切れ切れになっている。

 荒くなった呼吸音と、石の床を蹴る音が凄く耳障りで仕方がない。

 それでも俺は、回廊になっている通路を走り続け……やがて大きな扉の前に辿り着いた。


 扉の上には『治療室』の文字。

 珍しい白色の木材で作られた両開きの扉は、わずかに隙間があり半開きになっている。

 誰かが、入っていったからだろうか。

 その『誰か』とは、他ならぬあの子だろう。


 俺は早る気持ちを抑えられず、長年の使用で歪んでしまったであろう真鍮製の取手とってを押すと同時に叫んだ。



「ピノラっ! 大丈夫かっ!?」



 扉の内側に取り付けられていた鈴が、やかましく鳴り響く。

 勢い良く扉を押してしまったせいだ。

 それにも負けないほどの大声を上げた俺は、正面から飛んできた何かを視界に捉え、仰反のけぞった。



「うわあっ!?」


「うるさいっ! 治療室には静かに入って来なさいと、前にも言ったわよ!」



 響き渡る鈴の音より、俺の叫び声よりもはるかに大きな叱責が飛ぶ。

 驚いて尻餅をついた俺は、座り込みながらも先ほどまで自分の顔があった場所を見上げる。

 飛んできたのは、軟膏剤を混ぜるために使用する金属製の“へら”だった。

 刃は付いていないはずなのだが……かなりの速度で投げつけられたせいか、木で作られた扉の縦枠に突き刺さっている。


 俺は間一髪で避けられたことに幸運を感じながら、恐る恐る正面を見据えた。



「ここは言わば病院なのよ!? 毎回そうやってやかましくして、非常識だと思わないの!?」


「す、すみませんっ、アンセーラ先生っ!」



 そこには、白衣に身を包んだ獣人族の女性が立っていた。

 使い古された裾の長い白衣は、長年着ているせいでややくたびれている感がある。

 襟元や袖からは若い女性らしいきめ細かな肌が見えているが、その所々に艶やかな黒い体毛が覗く。

 燕尾のようにスリットの入った背部からは太く長い立派な尻尾が伸びており、怒りによって更に一回り大きく膨らんでいるように見える。

 片眼鏡モノクル越しに見える縦に細長い瞳孔を持つ瞳が、俺を睨みつけた。


 豹獣人パルドゥース族の医師、アンセーラ先生だ。

 獣人医である彼女は、闘技会グラディアが開催される時期に大会専属の救急医として、闘技場の地下にあるこの治療室で選手たちの応急手当てを行っている、のだが────────



「パートナーの獣闘士ビスタが心配なのは解るけど、だからって治療室に飛び込んで来ても良い理由にはならないでしょ! 次にまた同じ事をしたら、私のこの爪できみの開腹手術をしてやるわよ!?」


「うっ……いえ、あの……ほ、本当に申し訳ありません……!」



 アンセーラ先生は、右手の爪を見せつけるかのように俺を指さした。

 俺は必死になって『先生が一番大きな声を出しています』という言葉を飲み込む。

 恐らく、後方で待機している助手さんたちも同じ事を思っているのだろうが……そんな事を口に出せば、この治療室で重傷者が発生しかねないので、黙って手を動かしている様子だ。

 豹獣人パルドゥース族は元々、森林地帯を中心に生活していた歴史の長い獣人族である。

 木を登るために発達したその爪は、まるで鋭利な刃物のように鈍く光っている。

 人間族の皮膚など容易く裂いてしまうだろう。


 だがそんな恐ろしい爪を目の当たりにしても、俺は確認しなければならなかった。



「アンセーラ先生……ピノラは!? ピノラは無事ですかっ!?」



 俺は追加で怒鳴られるのを覚悟で聞き直す。

 ぴくりと肩を揺らした後ゆっくりと振り返ったアンセーラ先生は……まるで暗黒を纏ったような凶悪な表情をしていた。

 およそ医師とは思えないほどの鋭い眼光は、このアンセーラ先生が獰猛な豹獣人パルドゥース族であることを明々と示している。

 ざわざわと逆立つ全身の黒い体毛か邪気を放っているような、そんな禍々しささえ感じる程だ。

 本当に八つ裂きにされるかも。



「アレン君、きみ……いい度胸をしてるわね……これだけ言われてもまだ騒がしくするなら、本当に────────」


「い、いえ、あの、お……俺は、ピノラが心配で……そのっ……!?」



 慌てふためく俺にゆっくりと近付くアンセーラ先生。

 その背後から、唐突に声が聞こえた。



 



「あぁっ!? トレーナーっ!? トレーナーの声がするーっ!」





 つい先ほどまで漂っていた雰囲気とはまるで異なる、明るく元気そうな声が聞こえてくる。

 どうやら、部屋の一番奥から聞こえたようだ。



「あっ…………」



 聞き覚えのある声に、俺は顔を綻ばせる。

 爪を剥き出しにしていたアンセーラ先生も、後方から聞こえてきた少女の声を聞くと、途端に殺気を和らげ『やれやれ』と言いたげに首を横に振る。

 立ち尽くす俺の顔を見て、不満げな表情で告げた。



「はぁ…………いつもの通りよ。奥に居るから、こっちから入りなさい」


「は、はいっ! ありがとうございます!」



 俺は通路を開けてくれたアンセーラ先生の前を通り、治療室の奥へと進む。

 この治療室は、闘技場の出場選手が負傷した際に応急処置を行うために設けられた施設だ。

 地下の一角にあるのだが、天井近くにある明かり取り用の小窓には透明度の高い硝子ガラスが填められており、一見して地下とは思えないほどに明るい。

 光が反射する白い衝立ついたてから奥を覗くと、壁際にいくつもの清潔なベッドが並んでいるのが見える。

 窓から一番近い、明かりの注ぐベッドの上に腰をかけた、ひとりの少女がいた。



「ピノラっ!!」



 俺はまたしても大声で、彼女の名前を呼ぶ。

 名前を呼ばれ、視界に俺の姿を捉えたことで……『兎獣人ラビリアン』特有の長い耳がぴんと立つのが見えた。



「トレーナーっ!」



 元気いっぱいに返事をした獣人族の少女────────ピノラは、その顔に満面の笑みを咲かせて叫んだ。

 兎獣人ラビリアンである彼女の真っ白い頭髪の間から伸びる長い耳は、同じようにふわふわな純白の毛で覆われている。

 内側がほのかにピンク色をしており、可愛らしくぴこぴこと動く。

 宝石のような赤い瞳が、窓からの陽光を受けて輝いた。


 ピノラは俺を見た瞬間、治療用のベッドの上で飛び跳ねた。

 すぐそばで傷の手当てをしてくれていたであろう獣人族の看護師さんは、驚いて後ずさっている。

 勢い良くベッドから飛び降りたピノラを見て、俺は慌ててそばへと駆け寄った。



「えへへへっ! トレーナーっ!」



 近付いた俺に向かって、ピノラは嬉しそうに飛び込んで来た。

 背中に手を回し、ぴったりと密着するようにして抱き付いてくる。

 俺の胸にあたりに顔をうずめると、ぐりぐりと鼻を押し付けるようにして甘えてきた。

 ふすふすと聞こえる鼻音は、どうやら俺の服の匂いを嗅いでいるようだ。

 人目を憚らずに甘えるピノラがあまりに可愛らしく、このまま抱きしめてしまいたい衝動に駆られながらも……俺は彼女の肩を掴んでそっと離し問いかける。



「お、おいピノラ、大丈夫なのか? かなり吹っ飛ばされてたけど、怪我は……!?」


「うんっ、大丈夫だよっ! ……ちょっと擦りむいちゃったところはあるけど、えぇと、そのぉ……」


「大丈夫、大きな怪我は無いわ。医者の私が見たんだから、間違いないわよ」



 ベッドを隔てている白いカーテンを開けたアンセーラ先生は、ピノラの治療をしてくれていた看護師さんに『もういいわ』と手で合図をした。

 俺たちの様子を一瞥すると、そのまま自身のデスクへと向かう。

 横に設置されたテーブルの上で、分厚いふちのある小さなゴブレットに金属製のポットから液体を注ぐ。

 珈琲コーヒーだろうか、芳醇な香りが漂ってきた。

 人間族の嗜好品として広く流通しているが、豹獣人パルドゥース族で愛飲しているのはアンセーラ先生以外では見た事がない。

 机の上にポットを置いた先生は、左手で持った湯気立つ珈琲コーヒーを音を立てて啜りながら近付いてきた。



「やれやれ……ピノラちゃんはいつも通り、賑やかね。それに、3ヶ月に一度の闘技会グラディアが開かれるたびに治療室に駆け込んでくる訓練士トレーナーなんて、アレン君くらいよ」


「それは、その……す、すみません」



 俺は頭を掻きながら、俯いた。

 アンセーラ先生の言葉通り、ピノラはこの2年間、年4回開催される獣人族の武闘大会、通称『闘技会グラディア』に於いて、初戦で敗退しては治療室へ運ばれるといった試合を繰り返している。

 出場選手の中でも断トツで体重の軽いピノラは、どんな相手と対戦してもたった一撃を喰らうだけで吹き飛ばされてしまう事が殆どである。

 超軽量級のピノラの体格では、相手選手の攻撃を受け止めることなどできるはずもなく、毎回のように強力な一撃により治療室送りにされてしまうのだ。



「軽い脳震盪のうしんとうはあったようね。まぁ、あの勢いで闘技場の硬い壁に叩きつけられたんだから無理もないわ。他には、足と腕に擦過傷さっかしょうが数カ所……全部消毒して薬を塗っておいたから。数日して腫れるようなら、街の獣人医じゅうじんいを受診なさい」


「あ、ありがとうございます、アンセーラ先生」


「せんせいっ、ありがとうございますっ!」



 右目に掛けた片眼鏡モノクルが曇るほどに熱々の湯気が立ち上っているようだが、先生はそんなものを気にする様子もなく珈琲コーヒーを啜り続けている。

 …… 猫獣人ワーキャット族や豹獣人パルドゥース族は熱い物は飲食できない、というのは迷信だったようだ。



「どれも軽症だけど、今日は念のため安静にしておいたほうがいいわ。まぁ……アレン君のことだから、試合に負けたからと言って獣闘士ビスタに無理をさせるような事は、無いでしょうけど」



 このアンセーラ先生とは、協会認定の訓練士トレーナーになる以前からの親交がある。

 おかげで20歳を迎えた今も、どこか若年じゃくねんの男子に対するような扱いをされてしまうことがしばしばあり、闘技会グラディアの他の関係者が俺の事を姓で『モルダンさん』と呼ぶ中、アンセーラ先生にだけは『アレン君』と呼ばれている有様だ。

 横目で見ながら告げるアンセーラ先生の言葉を耳にし、ピノラは思い出したかのように身を小さくしてしまった。



「トレーナー、ごめんね……ピノラ、また負けちゃった……えへへ……」



 唐突に謝罪してきたピノラは、口では笑っていながらも心底申し訳なさそうな表情を浮かべている。

 どうやら試合にあっさりと敗れてしまった事で落ち込んでいる様子だ。

 純白の毛の生えた長い耳の内側にある、薄っすらとピンク色をした皮膚が隠れてしまうほどにしょんぼりと耳が垂れてしまっている。

 俺は俯きながら上目遣いで見上げてくるピノラの耳の付け根から髪までを優しく撫で、彼女と同じような表情を返す。

 上目遣いの彼女の瞳を見つめながら口を開いた。



「いいんだよ、ピノラ。お前に怪我が無かったなら、それでいい。でも、今回は惜しかったな」


「うん…………」



 俺は最上級に優しい顔と言葉で慰めの言葉をかける。

 と、俺はふとピノラの表情に目を留めた。


 気のせいだろうか、いつもの元気がない。

 もちろん『今回こそは』と意気込んで挑んだ闘技会グラディアで、いつも通りの初戦敗退を喫してしまったため、落ち込んでいるとは思うのだが……それでも、いつもならもっと明るい表情が見られるはずだ。

 しかし、今日のピノラは唇を結んで俯いたままでいる。

 


「…………ピノラ?」



 どこか思い詰めたような、そんな顔をしたピノラに声をかけようと口を開く。



「どうしたんだ? 大丈────────」


「ねぇ、トレーナーっ! ピノラ、お腹空いちゃった!」


「えっ……? あ、あぁ、そうなのか?」



 突然顔を上げたピノラは、にっこりと笑いながら告げた。

 いつもの笑顔に戻ったピノラを見て、俺は内心で胸を撫で下ろす。

 先ほど元気が無かったのは、空腹のせいだったのだろうか?

 俺は、着ていた外套コートのポケットを探ってみる。



「……ううん、困ったな。今日は携帯食料も無いから、一旦家に帰ろう。一度ピノラを家に送ったあと、市場マーケットで食材を買って来るよ」


「えーっ!? それなら、ピノラも一緒に行くっ! 美味しいもの買ってから帰ろーっ!!」


「えっ!? い、いや……たった今アンセーラ先生にも言われただろ、ピノラは家で安静に…………って、お、おい!」



 俺の制止も聞かず、ピノラは天真爛漫な笑顔のまま駆け出した。

 治療室の分厚い扉を勢いよく開けると、半身を廊下に出しつつ振り返って叫ぶ。



「先に控室で着替えてるねっ、トレーナーっ!!」


「ピノラっ、走らないでいい! ゆっくりで良いから!」



 慌ただしく出て行ってしまったピノラを追うように、俺もピノラが消えて行った入り口の扉へと向かおうと足を踏み出す。

 そこに、後ろから声をかけられた。

 


「…………ねぇ、アレン君」



 治療室から出て行ったピノラを追いかけようと目を向けた矢先、急に名前を呼ばれた俺は振り返った。

 ピノラの怪我が心配なさそうだったことで半笑いになっていた俺だったが……振り返った際にアンセーラ先生の顔が視界に入った時、思わず身を固くしてしまった。

 濃い黄色をしたアンセーラ先生の眼球が、真っ直ぐに俺を睨みつけていたのだ。



「な、何ですか?」



 突き刺さるような視線。

 先ほどまでとは打って変わって、張り詰めた空気が漂う。



「…………いつまで、こんな事を続けるつもりなの?」


「え……い、いつまで、とは…………」



 凍りつく空気。

 アンセーラ先生の瞳はやや瞳孔が開いており、一見して怒りや興奮といった感情を抱いている事が解る。

 眼光を一段と鋭くしたアンセーラ先生から問われ、俺は不意に目を背けてしまった。

 頑丈な大理石でできた治療室の床に視線を落とす。


 黙ってしまった俺を一瞥し、アンセーラ先生は右手に持っていた珈琲を机に置くと、正面から俺に向き直った。



「毎回言ってるけど……ピノラちゃんが怪我をしていないのは奇跡みたいなもんなのよ。今日だってそう。あんな戦い方をしていたら、ピノラちゃんがいつ大怪我したっておかしくないの。いくらあなたたちが協会認定の訓練士トレーナーとその獣闘士グラディオビスタだからと言っても、こんな事を続けていれば、いつか────────」



 途中で言葉が切れた。

 アンセーラ先生も、それ以上は言う必要もないと解っているのだろう。

 即答できなかった事で、沈黙の時間が流れてゆく。

 部屋の隅にいる看護師たちも、そんな俺たちの様子を見て手を止め、黙ってしまった。


 明るい部屋とは対照的な、重苦しい空気の中──────

 俺はアンセーラ先生と視線を合わせないようにしながら、深々と頭を下げ答えた。



「…………また3ヶ月間、ピノラと一緒にトレーニングしてきます。いつものようにご面倒をお掛けするかもしれませんが、また……お願いします」


「また、って……あっ!?」



 言うが早いか、俺はアンセーラ先生に背を向けて駆け出した。



「ま、待ちなさい! アレン君っ!」



 治療室の扉を押し、逃げ出すように廊下に飛び出た。

 ドアに付けられた鈴が、やかましく鳴り響く。



「すみませんっ! ありがとうございましたっ!!」



 閉まりかけた扉の向こうから、俺を呼び止める声が聞こえた気がしたが……

 俺は俯いたまま、ピノラが向かった控室へと走って行った。

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