兎獣人《ラビリアン》は高く跳ぶ❗️ 〜最弱と謳われた獣人族の娘が、闘技会《グラディア》の頂点へと上り詰めるまでの物語〜
来我 春天(らいが しゅんてん)
第1話 プロローグ
『第107回、
闘技場内に響く、進行役の声。
元々はサンティカ王家の人間が試合を観戦するために設けられた空間から発する声は、闘技場内の客席の斜面に沿って遠くまで響く。
これはこの闘技場が、元よりそういった目的のために作られているからに他ならない。
このような声の反響まで計算した建造物を、800年も前の古代サンティカ人が設計したという事実は驚くほか無いだろう。
そしてその声を受け、黒い波のように蠢く客席からは地響きにも似た大歓声が上がった。
轟々と沸き起こる声援。
天幕の張られた麗かな陽気のもと、3万人もの人々を収容できる闘技場の観客席は、早朝一番の試合だというのにほぼ満席状態だ。
サンティカに住む人々が、3ヶ月に一度開催されるこの
そして彼らの声援は、闘技場の中央……土の地面に立つ、ひとりの少女に向けられていた。
「──────たぁぁぁあああっ!!」
少女は大きく息を吸い意気込むと、前方に向かって駆け出した。
彼女の手足には
『
だが物々しい装備とは裏腹に、彼女の姿は闘技場に似つかわしくない程に細く、可愛らしいものだった。
陽光を反射する頭髪は真っ白に輝き、その合間から飛び出た
白くふわふわとした毛に覆われた長耳と、同じく存在を主張する腰の尻尾が、彼女が獣人族であることを示している。
赤い宝石のような大きな瞳をもつその顔は、幼い顔立ちながらも戦う意思を宿す。
それを示すかのように、彼女の手にはその細身にはまるで釣り合っていない、大きな
俺は、観客席の最前列……
「ピノラっ! 正面から突っ込むな! 側面へ回り込むんだ!!」
彼女……
第1回戦第1試合……相手は堅牢な守備に定評のある獣人族、
女性ながらも筋骨隆々の身体は、ピノラとはまるで正反対の成長を遂げた種族のようである。
馬身と呼ばれる下半身を覆う甲冑を4本の健脚で支え、更に上半身は
そして右手に握られているのは、巨大な
互いの武器は、
とはいえ……正面から叩けば間違いなく返り討ちに遭う体格差と剛力である、が────────
『ピノラ選手、お得意のサイドステップだ! 素早い横方向の動きで、距離を詰めて行く!!』
ピノラは
ピノラもそれを理解した上で、相手選手の後方を取るためにステップで撹乱しつつ前へ踏み出ているのだ。
だが…………
その“反復横跳び”とも言うべき動きは、特別に早い…………という程でもない。
確かに、武具を着用してあの速度を出すのは、人間族では至難の業だろう。
これは
だが、その程度の速さが通用するほど
「やぁぁぁーーっ!」
まるで引きずるように抱えていた
それは
鈍く響く金属音。
耳をつん裂くような大きな音は観客席を大いに盛り上げる。
だが、それは試合を決める一打とは程遠いものだ。
相手が体制を立て直す前に、ピノラは2度、3度と同じように剣を叩き込む。
しかし、どの攻撃もまるで速度が無い。
むしろ
「相変わらず動きは早いですが……やはりこの程度でしょう! 筋肉と鎧で覆われた私の身体に、そんな攻撃など効きませんわっ!!」
凛々しい女騎士を思わせるような口調で、
同時に、右手に持った大きな
「うぁぁっ!?」
横なぎにされた槍が空を切る音が、俺のいる
あんな攻撃を一度でも喰らえば、体重の軽いピノラではひとたまりも無い。
俺は汗ばんだ手で、落下防止用の手すりを握りしめる。
勝ち進むためには、相手選手の出す攻撃を残らず全て避けなければならない。
対して、ピノラが撃ち込める攻撃は、先ほど放ったものが限界だ。
それすらもまるで意に介さないかのように動き回る、
到底、敵わない。
「はあああああああああああああああああっ!!!!」
陽光をも遮るほどの巨体が、後ろ足2本で立ち上がるその姿に……ピノラはびくりと身を固くしてしまった。
「ひぇっ!?」
ほんの一瞬、竦む足。
避けるよりも先に、強張ってしまった身体は無意識に防御しようと構えてしまう。
──────── ピノラっ!! 止まっちゃダメだ!
叫ぼうとした俺の意思よりも先に、
地面を爆ぜさせる蹄の音とともに、大きな砂埃が舞う。
「きゃあああああっ!?」
眼前に落ちてきた蹄に、思わず身構えるピノラ。
正面へと構えた
ガラ空きになってしまった横方向から、相手選手が振り回した
闘技場に響く、けたたましい金属音。
ぶつかり合った武器同士が震え、火花を散らす。
「うぁ………………!?」
あまりにも大きな体格差。
薙ぎ払いの直撃を受けたピノラは、
小さく悲鳴を上げた彼女は、まるで水切りの石のように何度か地面をバウンドすると、後方にあった壁に叩きつけられ
気を失い、倒れ込んでしまった。
『決まったぁぁぁっ! 試合を決める、文句ナシの強烈な一撃!
闘技場内に響く進行役の声で、観客席からはひときわ大きく歓声が上がった。
勝利を讃える拍手を贈られた
そんな中……壁際でぐったりと横たわるピノラは、入場門から駆け込んできた救護班と思しき一団に囲まれていた。
手足をだらりと下げたピノラを、巨躯の獣人族がそっと抱え担架へと乗せる。
その光景を見た俺は
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