チュートリアル

4. 気が利くシェフの他人丼

HPとSPは種族ごとで初期値はほぼ一定で、ほか能力は初期平均7と確認した俺は、癖はありながらもだいたい平均程度の能力値に納得して「決定」を選んだ。


すると、新しい俺の体は白レンガ造りの壁に囲まれた街の見える、小高い丘の上に降り立ったのだが……


(うん? 突然コントローラー操作になったぞ?

 まだ1時間ちょっとのはずなのに……)


「兄ちゃん、ご飯できたよ! キャラクリはもう済んだ?」


俺のダイバーを半分持ち上げたヨウイチが、話しかけてきた。

なるほど、夕飯を知らせるために外のスイッチを押してコントローラー操作に切り替えたわけだ。


「椅子のままダイバー使ってたら、兄ちゃんいつか首いためるよ〜。

 最新型とはいえ結構重たいでしょそれ、せっかくついてたんだから枕使いなよ!」


「いや〜、キャラクリなんて適当に終わらせつもりだったからさぁ」


「だと思った! スキャンだけじゃないとなると、色々悩んじゃうよね。

 まぁ一旦ダイバーはおいといて、ごはんたべよ!」


「そうだな、ありがとよヨウイチ」


「おやすい御用で!」


向かった食卓には、蓋の閉じられた美濃焼のどんぶりとスープ、小鉢にゴーヤの漬物がみえる。


「ゴーヤは昨日のチャンプルーの残り、でもって卵も残ってたからかきたま汁と、お待ちかねのどんぶりはほら、開けてみてよ!」


「よーし、それじゃ」


「「いただきます!」」


丼本体が倒れないように下を支えて、水滴が机に散らばらないように傾けながらふたを取ると……


「よし! カツ丼…… いや、半分は親子丼か……?」


「兄ちゃん部屋に行くとき、どっちかが食べたそうにみえたから、チャンプルーに使った豚バラを刻んでひき肉に混ぜたなんちゃってカツと、鶏もも肉を卵で閉じてみました!

 油で揚げるのは手間だったから、こないだ買ってもらったオイルスプレーでカツは揚げ焼きにしたよ!」


「さっすが天下一の料理人ヨウイチだなぁ、さて、お味はと……」

さっそく揚げ焼きのカツから口に運ぶ。


モグモグ


「こりゃうまい!」


刻まれた豚バラと、豚ひき肉の火のとおりにムラが出そうなものだが、薄めに整えられた形状のおかげでまんべんなく火が通っていて、食感の緩急よ楽しい!


ただメンチカツとして食べるのなら、下味のついたひき肉からあふれる肉汁に叶うはずないが、カツ丼なら話は別!

卵と出汁に甘じょっぱく、優しく仕上げられた丼の中で存在を主張するバラ肉のなんと頼もしいことか!


玉ねぎのうまみと豚バラのマッチングは、2010年代に大手牛丼チェーンでレギュラーを得た、王道豚丼と同じ! 相性に疑いなんてあるはずもない!


「へへーん、どうよ! 今晩も自信作なんだ〜。」


「カツ側はとってもおいしい。 しかし、親子丼側はどうだ……」

パクッ

「う〜んたまらん!」


カツの油が伝播して、しつこくなりそうなもも肉だが、意外や意外お肉自体はちょうどいいしっとり食感!


「鶏ももって、焼いてるのか? にしては食べやすい気がするんだが」


「さすが兄ちゃん! お酒と塩で、一回レンジ蒸しにしてるんだ〜」


「それで噛むとしっかり旨味が出てくるのか! やっぱりヨウイチの飯は最高だなぁ!」


優しい仕上がりのかきたま汁と、苦味と酸味でさっぱりするゴーヤの浅漬けで休憩も十分。

出汁でつゆだくになったごはんをたまらず書き込めば、たちまちどんぶりがさらになってしまった。


「ごちそうさんでした」


「お粗末さまでした。ところで兄ちゃん、チュートリアルはどこまで進んだ?」


「いや、まだキャラクターが出来上がってサピ子と別れたところだけど」


「サピ子? サポートAIのこと?? 兄ちゃん相変わらず不思議なセンスだね」


「弟くらい肯定してくれよ……」


「兄ちゃんとことだから、詳しくジョブとかスキルとかまで見てないだろうけど、

 チュートリアルのAIに聞いたら一緒に戦い方とか考えてくれるから、おすすめだよ!」


「なるほど……サピ子のつぎはチュリ子か」


「あはは…… どんなAIがくるかはランダムだし、チュリ子はいないと思うけどね

 チュートリアルが進んで街に出たらフレンド送ってね! ハーフリングのイチで検索したら出るはずだから!」


「おっけー。んじゃ、食器洗うわ〜」


「兄ちゃんまかせた! 僕もむげんわーるどやろっと」


弟の楽しげな後ろ姿を見送る。弟はなぜだかハーフリングを選んだらしい。


(ヨウイチはまだ身長が低いので、スキャンからだったりして。)


などと少し失礼なことを考えながら、まったり後片付けを行うのであった。

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