恥ずかしながら『グルメ』と呼ばれています ー食道楽が征くVRMMOー
スキッパ
プロローグ
1.初めてのフルダイブ
「兄ちゃん、昼頃宅配きてたよ! これでやっと一緒にできるね!」
帰宅した俺を迎える弟、ヨウイチは満面の笑みをうかべる。
10歳離れた弟であるヨウイチは、中学の入学祝いにフルダイブVR機器を買ってもらって以来、俺がもう一台買って一緒に遊ぶときを今か今かと待っていたのである。
「『むげんわーるど』はもう買ってるんでしょ! 早く始めてよ! もう3日も経ってるんだよ!」
そしてヨウイチは今、先週末に出たばかりの新作VRMMOゲーム「むげんわーるど」にお熱なのだ。
なんでも、そのポップな作りのわりに自由度が高く、プレイヤーの行動をゲームシステムに取り入れていく方針なんだとか。
「せわしないなぁもう、仕事終わったばっかりなんだから一息つかせてくれよ」
「兄ちゃんの一息を待ってたら休日になっちゃうでしょ! ほら、晩飯は兄ちゃんの好物に寄せるからさ〜」
なんと、ヨウイチは飯を交渉材料に持ち出してきた。
それもそのはず、両親が仕事人間でたまにしか帰ってこない我が家の台所担当は弟様なのだ。
後片付けや水回りの掃除とかは俺がしてるので、トントンということになっている。
そして、中1から料理を始めたはずのヨウイチの腕は、才能からかメキメキと上達。
いまでは俺の好みを知っている分、そのへんの定食屋の5倍はうまい食事を作るのだ。
「ほんとうか!? 男に二言はなしだぞ、ヨウイチ! よっしゃ、今日はヨウイチの丼ものだ〜!」
「そしたら、夕飯までにキャラクリ済ませてきてよ! 卵も贅沢に使ってあげるから!」
「とびきりのやつをたのむ! むげんわーるどは任せろ!」
うまいものを人質に時間制限付きの任務を受けた俺は、カツ丼か親子丼かわくわくしながら自室に飛び込む。
すると、見慣れたベッドにおかれていたのは、ヘルメット型のフルダイブVR機器、いわゆる「ダイバー」の箱と、専用の枕だった。
大きなカプセル型から始まったフルダイブVR機器も小型化がすすみ、このヘルメット型が売り出されてから十数年だ。
出た当初は体に負荷のかかる体制での長時間使用が問題となり、「フルダイブ首」なんて言われていたが、肩から首への負担を抑える枕が開発されてからはすっかり聞かなくなった気がする。
「……っし、これを首に貼って……、よしできた。じゃ、カツ丼様のために、さくっとやりますか!」
まだ確認もしていない夕飯のメニューをすっかり決めつけ、座ったままヘルメットを被った俺は、耳元のスイッチに手を伸ばしたのだった……
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