肉食系女子は学園都市で恋がしたい

いつきのひと

肉食系女子は学園都市で恋がしたい

 ここは学園都市の中心にして心臓、魔法学園。

 私の学び舎。

 そして今居るのはここで生活する学生や教師達の為に運営されてる食堂。


「恋がしたいの!」


 私の突然の宣言に、食堂が静まっちゃった。

 そんなことはどうでもいい。私は恋がしたい。


 夏の日差しのように激しい恋を。

 クリームよりも甘い恋を。

 冬の布団のように優しい恋を。


「それは構わないのですがモゴ、どんな人がモゴ、お好みなのですか。げぷ。」


 突然話に付き合わせちゃったのは謝るよ、名前も知らない下級生よ。それに食べながらでも話を聞いてくれるのはホントありがたい。

 私の感情は止められないのだ。止めてなるものか。



 まず必要なのは強さ。したたかじゃないよ。つよさだよ。

 どんな逆境も打ち払う強さが欲しい。状況をひっくり返せる程の強運が欲しい。

 なんなら宝くじで毎回一等当たるような運の強さを持ってる人がいい。


「それ、強さじゃなくてお金持ちとか経済力のことですよね。」


 うぐぅ、鋭いな下級生。食ってる傍から栄養を頭に回してるのか冴えまくってるじゃないか。まさか今の発言だけで今お金持ってなくてもそのうち雑草みたいにお金が手に入るようになる人が良いというのを理解したというのか。

 ぐうの音も出ません。今うぐぅとか言いましたけど。

 その通りです、お金持ちがいいです。


「わたしはずっと教室に居るので、誰がお金持ってるとかわからないですよ。」


 お茶を啜る下級生。音を立てるマナーの悪さはきっとクソ社交マナーを押し付けられたことからくる反発心だ。私もやった。わかるわ。


「ずっと教室に居るとは言うが、君、図書室にもよくいるではないか!」

「それはもう、本を読むのは好きですから。」


 この下級生、頭の回転が私以上に速いのではなかろうか。指摘に対しての返答がとても早い。これはもう未来予知の域だよ。



 そんなわけでずっと下級生の昼食を邪魔してしまったわけだけど、彼女は上級生の顔を立ててくれた。

 全部聞き流してくれてもよかったのに。なんてかわいい奴なんだ。


「性格とか色々難アリですけど、お金持ちで恋人探してる人、ひとり知ってます。」

「それどこの誰!?」


 私が思い切り手を突いたせいで、テーブルの上の彼女の全く進んでない昼食が食器と一緒に踊っていたけど、気にしない。

 おかわりを奢ってもいいくらいに重要な情報だよ、それは。


「なんか、どこかの貴族のちゃくし? と言ってました。」


 まじで。とんでもない大当たりじゃないの。そんなのが彼女募集中? まじで。

 莫大な財産と広い領地と素晴らしい名声を全部頂けるのでしょう? レッツ玉の輿。

 でも難アリって言ったよね? それどういう意味? ああ、飲んでからでいいよ。待ってる待ってる。


「部下を使って意中の相手を手にしようとするような人です。」


 あ、それ知ってる。襲われた子がそれを先生に告発したら握りつぶされちゃったのを契機に自警団が発足したってウワサのやつだよね。誰がやったのか知ってるんだ、今の下級生やばい。情報通すぎる。


 なんでそんな酷い相手を私に言うかはどうでもいいの。私が求めている条件はお金持ちなんだから。


「親以外からは頭下げられる生活しかしてなかったでしょうから、対等にぶつかり合えるような誰かとくっつければ大人しくなるとは思いますよ。たぶん。」


 よし決めた。そいつを狙う。そして落とす。篭絡してみせる。


「早速だけど行ってくるわ! ありがとね下級生!」

「いってらっしゃいませ~」


 手を振りながらも全然箸が進んでいないかわいい下級生見送られ、私は肩で風を切り廊下を突き進む。

 目指すは玉の輿の莫大なお金。じゃない、身分違いの大恋愛。


 一年生で貴族の息子というのは一人しかいない。私は新入生は全員チェック済みなのだ。

 ちなみにさっきのはアサヒちゃん。魔法が使えないらしいが誰にでも丁寧に対応する事でそんな欠点や自己評価の低さから来る卑屈さを感じさせない子。ちっこいのに肝も据わってて将来有望株。そして今新たな情報を頭の中のノートに書き加えた。めちゃくちゃ小食だ。

 私は残念ながら女性を恋愛対象にできる器の広さは持っていないが、同性でなければ口説いてもいい。




 人肌の温もりを求める貴族の子息と対等に話せる一般市民出身の先輩とが出会ってしまった。

 学園を巻き込む壮大な身分違いの大恋愛の開幕!


 の、はずだったんだけど。

 気が付くと私は自分で眠っていて、朝の目覚まし時計で目を覚ました。記憶がごっそり抜けている。

 嫌な結果が頭をよぎったりはしたけど、いちおう昨日と同じ席に居たアサヒちゃんにも聞いてみた。


「フラれましたね。」


 直球! なんという剛速球だ。もうすこしオブラートに包むような言い方はできないのかねキミ。


 善の魔法使いとしてはタブーなんだけど、人の心を操作する魔法を持っていて、被害者の女子生徒にそれを使って手籠めにしているという噂話を知っている。

 それを使われたのは間違いない。だが一晩でヤリ逃げされたって事ではないようだ。私の身体はまだ清い。全力でお断りされてしまった。


「諦めんぞ! 私は恋を得る! 一生遊んで暮らせるお金をゲットする! だから次だ! 他に居ない!?」


 君のクラスメイトにもお金持ってそうなのいるよね。ほら、親がアレでアレしちゃった彼、クロード君だっけ?


「クロード君は彼女募集中ではないので今は止めた方がいいと思います。繊細なので、先輩に襲われたらトラウマになると思います。」


 襲うとか何!? 酷い! 私は飢えた肉食獣じゃないし人間も食べないよ! いや、恋に飢えてるから、ちょっと味見したりツバつけちゃったりはするかもしれないけどさー。

 恋に恋する乙女のこの欲情はどこで発散すればいいんだ。



 話しやすい相手ならば段階を踏めば恋愛関係に発展する事も不可能じゃない。


「ねえアサヒちゃん。お姉さん提案があるんだけど。」


 生物的に、繁殖のために男でなければいけないという括りを捨て去ってしまえば何のことは無い。それに魔法があれば女同士でも子供は作ることができる。生命倫理? 人体の禁忌? 知るかそんなもの。愛の力でねじ伏せろ。


「先生を落とす為に、まずはお姉さんと予行演習ということで。」

「お断りします。」


 親身に答えてくれるからもしかしたらと思ったけど、アサヒちゃんは口説けませんでした。ふわふわしててその辺の男子にパンツ見せろって言われたらあっさり見せてしまいそうな雰囲気なのに、めちゃくちゃガード硬いじゃないか。



 恋に恋する私が本物の恋に出会うまで、あと百日。

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肉食系女子は学園都市で恋がしたい いつきのひと @itsukinohito

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