これからのこと
シヨゥ
第1話
「あーあ、倒してしまった」
魔王が怨嗟の声を上げながら事切れていく最中、僕らのリーダーはそう呟いた。
「まるで倒さなければよかったと言っているようだな」
それに食って掛かったのが血まみれになりながらも攻撃を食い止め続けた戦士だ。
「いやいや。倒せて良かったとは思っているよ。もちろん」
「でもそれにしては倒せてしまったことを残念がっているように聞こえるが」
年老いた魔法使いも戦士ほどではないが納得がいかないようだ。
「……分かった。認めるよ。魔王が倒せてしまったことが残念だ」
「なんてことを言いやがる。こっちは死にかけながらも戦っていうのに」
「まぁまぁ落ち着きなさいよ。大人しくしていないと傷口が開く」
今にも切りかかりそうな戦士を僧侶が諭す。
「理由を聞いても?」
魔法使いが問いかけると、
「みんなはこれからを考えたことがあるかな?」
勇者がそう問いかけを返してくる。それに誰もが首を振る。
「この旅を終えて、故郷に帰る。すると僕らは勇者として迎えられる。勇者として褒めちぎられ、祭り上げられる。きっと僕らは良い気持ちになれる。もしかしたら報奨金をもらることもできるかもしれない」
「そうだな。俺はそれが欲しくてこの旅に参加したんだ」
戦士がそう声を上げる。
「でもそれは一時的な話でしか過ぎないんだ。熱が冷めれば僕らの周りからは人が居なくなる。報奨金も一生涯暮らせるほどもらえるわけじゃない。ぼくらは魔王討伐という非日常から日常に戻り、死ぬまで生活を送らなければならない。今までは魔王討伐という目的があった。だがどうだ。生活に何の目的がある。ただただ死ぬまで生き延びる。そんなつまらない時間が今から始まるんだ」
勇者の言葉に場の空気が重くなった。その空気に耐えられなくなったのか勇者が立ち上がる。
「これから王様へ報告をするためのぼくらの最後の旅が始まる。今までぼくは君たちを引っ張ってきたけど、もう君たちを引っ張ることはできなくなる。各自、今後の身の振り方を考えながら最後の旅に臨んでもらいたい。以上だ。ご苦労様」
そう言って一足先に魔王の居室から出ていこうとする。
「君もご苦労様。もうしばらく荷運びをお願いするよ」
すれ違いざま僕の肩を叩く勇者の顔は辛そうだった。その顔がこれからの現実を突き付けているようでなんだか辛かった。
これからのこと シヨゥ @Shiyoxu
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