第30話 9-1
看護婦さんがにこやかに笑って、俺を送り出す。俺は軽く頭を下げる。
真夜中の病院の廊下。
小さな足音がついてくるのも気にせず、俺は夜の街に飛び出した。
ーー今度こそ。
ーー今度こそ、やってやる!!
回想。
母が倒れ、病院について行った時。
医者に呼ばれ、カンファレンスルームに行くと、恵は疲労だろうと言っていた。
「念のため、今日と明日は入院させるけど、すぐに退院できるから心配しないで」
と笑っていた。
「ありがとうございます。母をよろしくお願いします」
俺は頭を下げた。
待合室のロビー。
どうやら俺は俺で「答え」を見つけなければならないらしいーー。
ある程度の答えは決まっているが、それを選んでいいものか?という迷いが、心を支配している。
この世の中から、邪の心を持つ人間がいなくなればいーのに。
ーー人の心は見えない。わからない。俺は俺自身がそんなものに振り回されているように思えてくる。
カチャリ。
鍵を開け、誰もいない自宅に帰ると、いつものクセで俺は言った。
「ただいま」
当然の事ながら、それに応答はなかった。
病院で、まるで重病人であるかのように真っ青な顔で眠っている母を見て、俺は少しだけ心が痛んだ。
だが、母の倒れたその姿が俺の背中を押した。
2日ほどの時間しか俺には残されていなかった。
ーー母さん見てて!!
俺はまたあの三人と、例の喫茶店で会う約束をとりつけた。
ーー何もなかったかのように、彼らに会えるだろうか?
その自信はなかったけど。
俺はまた藤田しげる、沢田昌平、そして山崎太郎に電話して、約束をとりつけた。
案の定、彼らは簡単に会ってくれる事になった。おそらくは真実を知った僕が、復讐を仕掛けるのも考慮した上で。
彼らとの待ち合わせは午後3時。
例の喫茶店になっている。
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