第27話 8-3
ようやくの思いで、家にたどり着くと、玄関先には恵が立っていた。
「どうだった?」と微笑んでいる。
「ーーごめん。今日は疲れた。そのまま寝かせてくれ」
どこから出てるのか?俺は素っ気ない声を出していた。
ーー何かあった?
母である恵はそれを的確に感じ取っていた。
いつもの二階への階段を上る足音。
「ーー今はそっとしておきましょう」
独り言のように、恵はぼやいた。
何はともあれ、息子である秀二が何事もなく帰ってきてくれたんだーーそれがすごく嬉しくて、危険だと思っていただけに涙が溢れた。
「ーーおかえり。お疲れ様」。
呟くような小さな声で、階段をかけ上ってる息子の背中に言う。当然の事ながら秀二からの返事はない。
秀二は着替えもせず、ベッドに横たわる。
目頭を抑えた。
父さんは結局、揺すった以外は非がないのにーー共犯者にされて、、。
涙が流れる。
ーー父さんのバカ。あんな奴等に言いように利用されて、殺されて。バカだよ、あんた。
この真実を知って、俺はどーするつもりだったんだろう?
まさか、こんな結末だったなんてー。
父さんは加害者でもあり、被害者でもある。その比率は被害者の方が大きいだろう。
ーーそれでも父は間違っている。
階段を歩いてくる軽い足音が聴こえてきた。
おそらく恵だろう。
トントントン。
小さなノックの音が響いた。
「ーー秀二、ご飯はどーするの?」
「ーーいらない」
「食べないと体に毒よ。ここに置いておくから、適当に食べなさい」
「ーーあぁ」
「おやすみ」
入り口に夕飯を用意して、恵は階段を下りて行った。
恵の足音が寂しげに響く。
そして秀二は一人の部屋に引きこもったまま、どこまでを母に話すべきなのか?考えている。
朝。
気がつくと、朝が訪れていた。
少しも眠れないままーー。
階段を上ってくる足音。
コンコンコン。
部屋をノックする音の後、恵の声が聞こえた。
「ーーご飯、食べてくれたのね?ありがとう」
「うん」
蚊の泣くような声で、秀二が言った。
「少しは眠れた?」
秀二は黙っている。
「ーーそう、眠れなかったのね。落ち着いたら、話聞かせてね」
ゴトンと食事を置く音が響いてくる。
「朝ご飯、食べてね」
そう言って、恵は階段を下りて行った。
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