第9話 夢物語を編んでいく08
ユカリが違和感を伝えてきた実地訓練の日から、数日が経過した。
相変わらず退魔士の卵として、学校で訓練を続けるキサキ達だったが、その日はそんな彼らに正式な任務が言い渡される事になった。
放課後、担当教官からその話を聞かされたキサキ達は輪になって、話し合っていた。
まず最初に口を開いたのはキリコだった。
「今回の任務、まだ卒業もしていない退魔士が指名されるなんて異例すぎる。お前たちはどう見ている」
その問いに、真っ先に答えたのはキサキだ。
「ふつーに考えりゃ俺達の地道な努力を見たお偉いさんたちが、大抜擢! って話になるんだろうけど、そりゃちょっと違うよなぁ」
「はぅ、あたし達まだ二年生だよ。三年生でも、一部の人しか任務に臨めないのに」
自信なさそうな様子で、その後を引き取るのはミシバだ。
そして次いで口を開いたのはカオル。
「アタシ等の総合成績ってさ、同年代の他のクラスよりも劣ってるはずだよ。こりゃ、きな臭いぜ」
「もしかして、私達、何か都合の悪い事を任されるんじゃ」
最後にシオリが後ろ向きの意見を吐き出したのを見て、このクラスのトップメンバーでありまだ何も発言していない人物に向けて、キサキが水を向けた。
「よし、ユカリ。お前なんか知ってるだろ、吐け」
「はぁー、やれやれ、ここはユカリさんの出番みたいですな」
いかにもといった様子でもったいぶった言い方をするユカリは、機会を狙っていたと言わんばかりの態度だった。
ユカリは、その場にとどった面々をぐるりと見渡してから口を開く。
「さて、この間、西の方で退魔士の一団が全滅した噂、皆はどれくらい知ってる?」
その事実は、クラスメイト達の中では知らない者などいなかった。
ミシバですら知っている事実だ。
問いかけに代表して答えるのはキリコ。
「教官から聞いた以上の事は知らんぞ。名のある第七師団が任務で蝕者掃討を命じられ、現地に向かったらしいが、途中で音信不通。交戦記録を中途半端に残したまま消息を絶ったという」
その言葉に満足したように、聞き終えたユカリは首を縦に振る。
「そのとーり。でも一般には知られていない事があってねぇ。その第七師団が交戦した蝕物はSSクラスらしいよ」
その言葉に集まった者達が一斉にざわめく。
SSクラスとはほとんど遭遇しない、強力な個体の蝕物の事だった。
並の退魔士では出会った途端、手も足も出ずになすすべもなく一方的に蹂躙されるしかないという、そんな相手だ。
そこで、考えを巡らせたキサキが、冷や汗を掻きながらといかけた。
「おいおい、まさかそいつのデータ取りに俺達がぶつけられるってぇわけじゃねーよな」
「さっすがたいちょー、その通り、データがたくさん撮れれば採れるほど、勝率は上がってくものだからね、無駄に有望で将来せいのある退魔士を潰したくない大人達は、考えたって事。滅具も人間も同じだよぉ」
かなり危険な任務になる。
プロにもなっていない学生が生還できるとは思えない内容だ。
任務を断る事も出来る。
一応、逃げ場は残されていた。
だが、キサキ達は、そうすることなくその日までに準備を進めていった。
ただ一人、メグミだけがその理由を理解しないまま。
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